北海道に上陸するまでは台風11号が日本列島を襲い暴風雨を撒き散らしていた。
今回の縦走で一番の懸念事項が台風11号の進路だったが、いつの間にか温帯低気圧に変わったあと、台風一過の滅多に訪れないほどの絶好の登山日和になっていた。
旭岳登山開始
ロープウェイは朝六時から運行開始しているとのことだったが、OD缶で湯を沸かしたかったので売店が開くのを待っていた。今回の縦走ではアルストは予備。
弘前駅近くのモンベルで購入する予定だったが、仕事が遅くなり立ち寄ることができなかったのだ。
因みに飛行機はOD缶の類は持ち込み一切禁止。
陳列棚には置いていなかったが、従業員に問い合わせるとレジの裏から持ってきてくれた。
これで縦走中に温かい食事を摂ることができる。
観光客と登山客の両方を載せロープウェイは五合目まで一気に高度を稼いでくれる。
キャンプ場から登山道を登ることも検討したが、久々の縦走登山なので楽ちんコースをチョイス。
ぐんぐんと高度を上げるに連れ旭岳の山並みがどんどん広がってくる。
ロープウェイの姿見駅で降りるとそこは別世界。
展望デッキにザックを下ろし、揚げたてのコロッケを頬張りエネルギー補給。熱々でひき肉たっぷりのコロッケはとても美味かった。
これから三日間は山の中で過ごすことになる。
荷物を点検し、靴紐を締め直したあとは、まずはウォーミングアップも兼ねて散策コースをグルっと巡る。
旭岳石室(避難小屋)までたどり着くと、そこから先はいよいよ本格登山の開始。
一般観光客はお断りの世界が始まる。
北海道の山並みは本州とは山の雰囲気が全く異なる。
大雪山系は2,000m級の山々を縦走していくことになるが、緯度の関係で本州の3,000m級に匹敵する気候に身を置くことになる。
天気が良ければ気持ちのいい稜線歩きを満喫できるが、ひとたび天候が荒れると一気に遭難の危険度がUPする。
万全の装備を整えて臨まないことには命が幾らあっても足りないくらいだ。
また、本州では3,000m級のエリアであっても営業している山小屋や避難小屋が点在しているので、テント泊装備がなくても小屋泊で縦走できるが、北海道の山は最低限の雨風をしのげる避難小屋しかないので、テント泊が基本となる。標識なども朽ち果てていたりとワイルド感が大幅UPするのだ。
というわけで、テント泊用の装備と晩秋であっても冬山装備を携えていないと万が一のときに対応ができなくなるのだ。
必然的にザックの重量がズッシリとのしかかる。
太ももが悲鳴を上げ始める
旭岳は急登というわけではないが、ザレた小石混じりの道をどこまでも登っていく感じで、途中、浮き石などがゴロゴロしているためうっかり足をくじかぬよう注意しながら登るため、地味に疲労が溜まってくる。
登山開始から1時間ほど過ぎたあたりで太腿の筋肉がピクピクと痙攣し始めた。
それでも日差しが暖かいのでしばらくの間はそれ以上の症状レベルになることはなかったのだが、ニセ金庫岩あたりまで登ってくると遂に太腿の筋肉が攣り始めた。
ニセ金庫岩と設営中の簡易トイレ。中でお兄ちゃんが最後の点検を行っていた。
ここ数年、麓のキャンプ地でテントを張りベースキャンプ型登山を楽しんでいたので、キャンプの中間日に日帰り登山を楽しむ状態が続いていた。それに加え、日々のジョギングは身一つで走っているので重量ザックを担いで登るための筋肉がすっかり衰えているようだ。
このまま進むと過去の経験から動けなくなること必死なので、直ちに対策を講じることにした。
【ツムラ漢方芍薬甘草湯エキス顆粒 】
筋肉の痙攣や攣ったときの特効薬
ザックを下ろし、休憩がてら顆粒状の一包を口中に放り込み水で流し込む。
絶景を眺めながら静かに五分ほど休んでいると、あら不思議!
先程までピクピクと痙攣して痛みのでていた太腿が一気にほぐれ痛みが引いていく。
初心者の頃、冬の雲取山で疲労遭難しかけたときの教訓から登山の際には必ず携行する必需品になった。
人によっては短時間で何回も服用すると色々な副作用が出るらしいが、今のところ問題なし。
即効性があるので頼もしい応急ドクターになっている。
ここ最近は全く服用していなかったが、久々の重量を担いだので筋肉が悲鳴を上げてしまったのだろう。
ついでにアンパンを口中に放り込みエネルギー補給をして登山開始、頂上まであと少し。
特効薬の影響もあり、その後は痙攣することもなく足を動かすことができた。
ニセ金庫岩を過ぎ、本物の金庫岩までくるとあと一息。絶景を楽しみながら登っていると、旭岳頂上の標識が見えてきた。
北海道の最高峰は360度の大絶景!
雲ひとつない穏やかな晴天に恵まれ、なだらかな山並みが東西南北どの方角を見ても遥か彼方まで続いていく。本州ではなかなかお目にかかれない絶景だ。
言葉で説明するのがもどかしいくらいの絶景がどこまでも広がっていた。
頂上直下の野営場
ひとしきり頂上の眺めを楽しんだあとは今夜の寝床、裏旭野営場に向かう。
旭岳の頂上から200mほど下ると雪渓が現れ、その向こうの鞍部になだらかな野営地が見えてくる。
この時期でも雪解け水が流れており、水の心配は稀有に終わった。
もっとも、直接飲めないところが残念だ。
北海道の山はキタキツネの寄生虫であるエキノコックスの卵で水源が汚染されている箇所が多く、ここ大雪山系も例外ではないらしい。
煮沸すれば飲料可能なので、麓から担ぎ上げた水とここで汲んだ水を活用することにした。
画像右が縦走路、画像の真ん中あたりの白い点に見えるのが先客のテント。
裏旭野営場に着くと、既に一人の先客がテントを張り終えて寛いでいた。
野営場は石をサークル状に並べた陣地のような場所が点在している。
この場所は風の通り道らしく、普段は常に風が吹いており、時折暴風が吹き抜けるということだ。そのためテントを飛ばされないようにガイラインをペグと石の重みで固定すべく、先人たちが石を張り巡らせてくれているのだ。
先人たちに感謝し、早速設営。
で、あっという間に設営を終え、お約束の珈琲タイム
それにしても天気サイコー。なにしろ無風というのが信じられない。
大雪山系は常に風が吹いていると聞いていたので、この拍子抜けするくらいのコンディションの良さに珈琲の味も格別に美味く感じる。
いつも不思議に思うのが、
山で飲む珈琲はなんでこんなに美味いのだろう?
家で挽いているのと同じ豆なのに、味が全然違うのだ。しかも登る山によっても味が変わる。
その地域の天然水の影響だろうか?
今回はエキノコックスの卵が隠し味になっているのか?(笑)
結局、美味い珈琲を飲みたいから山に登るのだと改めて認識させられた。
インスタントのスティックコーヒーもお手軽でいいが、最近はハンドミルも小型化されたので、挽きたての珈琲を是非お試しあれ。
昼過ぎに着いたので暫くマッタリ過ごし、テント内で微睡んだり、あたりを散策したりと、余裕の縦走プランをタップリ楽しんでいると、旭岳の背後に日が沈み始めた。
夕焼けを眺めながら晩ごはん
最低限の水で熱々の食事にありつける。なんとありがたいことか!
アルファ米も最近は美味しくなった。サンマも缶詰ではなく袋タイプにすることでゴミが嵩張らない。
塩昆布やビーフジャーキーは一度に食べきるのではなく、三日間通して少しづつ食べていく。
食べ終わったらアルファ米の袋に全てのゴミを放り込み空気を抜いてチャックを閉じるとスッキリ嵩張らずに携行できるのだ。
ゴミ類は紙切れ一つ残さず全て持ち帰る!
SNSでは凝った登山飯がたくさんUPされているが、ソロ登山ではきちんと栄養補給ができればそれで良し。
調理に時間を割くのは最低限でいいのだ。
音のない世界
日が沈むと一気に冷え込んで来ることを想像していたが、予想に反して全然寒くなかった。
そして何より音がない。
森林限界を超えているので木々のざわめきや虫の音が一切聞こえてこない。
しかも無風なので山の鞍部特有の風の音が鳴らないのだ。
反響する壁などもないため足元の石を蹴ってもすぐに音が消えてしまう。
無音の世界。
久しぶりに(シーーーン、、、)という漫画の無音を表す音が耳の奥で微かに鳴っていた。
この日はテン泊も自分を入れて5組。距離も離れているので完全にソロ気分。
空を見上げれば満点の星々が煌めいている。
済んだ空気と街明かりが全く無いので、彼方の稜線のすぐ上から星が見えるのだ。
音のない世界で360度遮るものがないプラネタリウム、ではなく本物の星空を見ていると、まるで宇宙空間にいるかのような錯覚に囚われてくる。
こんなとき、頭の中で流れているのはこんな曲
孤独、というより大地の一部、自然のなかに溶け込み、この体は果てしなく大きな宇宙で生かされているちっぽけな存在に過ぎないということを改めて実感する一時だ。
北海道の最高峰を登ったという達成感から、俺は生きている!
と思うのではなく、なにか大きな力で生かされているのだ。
そんなことを思いながら温々の寝袋に包まれた、、、
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