三ヶ月で辞めることになった新人に真顔で質問された。
始めたばかりの仕事をアッサリと辞めるに至った経緯が気になるところ。
最終日に二人で焼肉を食べながらじっくりと聞いてみた。
今時の仕事事情
普段は訪問先へ一人で訪れ請け負った業務をこなしているが、規模の大きな訪問先などは他の協力会社の仲間と仕事をすることになる。
元請けから受けた依頼内容をそれぞれの担当ごとにチームでこなしていくのだが、彼女はその協力会社の下請け会社に新卒で採用された新人だ。
今年の春に大学を卒業し、自社で数カ月間の新人研修を受け九月から協力会社に採用された。
元請け→協力会社→下請け会社(彼女のポジション)
要は二重派遣の業務形態。
身分は正社員だが実態は派遣社員と同じような形態だ。
そんな彼女とは訪問先で時折顔を合わす程度だったが、相手の目を見ながら自分の意見を笑顔でしっかりと言える若者なので、次にどこの訪問先で会えるのか楽しみにしていた。
網走から戻ったあとは埼玉に2週間ほど通うことになったが、そこで彼女と再開することになった。
担当する分野は違えど、自分が担当している部門にもOJTとして何度か一緒に仕事をする事になり、数日間行動をともにした。日々の仕事を終えたあとは駅までのウォーキングにも付き合ってくれて、その道中、仕事の話やお互いのプライベートな話もできるようになっていた。
彼女にとっては協力会社の上司とも元請けとも違う立場だったので、利害関係が絡むことなく話しやすい相手だったのだろう。
そんなある日
「来週いっぱいで辞めることになりました」
と突然告げられた。
それまでの相談内容からうすうす感じていたが、実際話を聞いてみると、仕事を始めた当初から採用してもらった協力会社の担当者からひどいパワハラを受けていたのだという。
理由を聞いて、またか!と納得してしまった。
彼女の上司は自分と同じ頃に元請けに採用された同世代のオッサンで、当人の担当している分野が人手不足のため過去に何人も経験者を採用していたが、皆同じ理由で辞めてしまうのだ。
担当上司は業務に関するスキルは十分に持ち合わせているのだが、それ以外の人格面では感情をコントロールできない幼稚な性格なのだ。
お客様の前では卑屈なほど低姿勢で対応するが、その反動からかチーム内ではただの駄々こね坊主と化してしまう。
なので、チームのメンバーや部下に対しても気分次第の対応となり、結果として部下はついていけなくなり辞めてしまう。毎回その繰り返し。
どんな会社にも一人や二人はこの手の幼稚なオッサンは存在するが、流石にここまで部下が何人も辞めてしまうような状況だと降格か左遷は免れない。
しかし、自社内で上司や同僚、部下などと共にと仕事をするのではなく、元請けに一人で出向という形態で仕事をしていると、先輩が諌めたり同僚がアドバイスをしてくれる機会がない。
若ければ元請けから苦情が出ることもあるのだろうが、重要な部門を任されているオッサンになるとそれも効果がない。
長年、お山の大将でいることの弊害がモロに出てしまっている悪例だ。
最近はこのように、自社内で上司と同僚や部下という絡みで仕事をするのではなく、元請けに単独で出向し、指示された業務だけをこなしていく業務形態が非常に増えているようだ。
元請けにとっては人件費を節約でき、下請けにとっては人を送り出すだけで済むので、ポン引きと同じような仕組みが一般化してしまった。
仕事場で顔を合わせていても、お互いが他所の会社から出向いてきているので浅い関係しか築けない。
当人は言われたことだけをこなしていれば契約内容には反しないが、問題を起こしたりスキルが足らないと直ぐに選手交代となる。
人間がただの消耗品になってしまった。
新人にとっては、このような環境下で仕事を覚えなければならないので、失敗を恐れるあまり指示待ち状態が当たり前になっている。その点、彼女は営業担当に現状を改善してほしいと必死で訴えていたようだが、営業担当としてはお金を払ってくれる側のパワハラオジサンに物申すことなどできないだろう。
石の上に座りっぱなしの時代ではない
辞める結論を出す前に相談されていたら、何かいいアイデアがないか多方面に働きかけることもできたが、なにしろ他所様の会社事情なので下手に口出しをするわけにもいかない。
このような上司のもとで、初っ端からアッサリと仕事を辞める決断を下した彼女に対しては、
上司ガチャのハズレ引いちゃったね
としか言いようがない。
本人はスタートから躓いてしまったことを気にしているようだったが、考えように寄っては早々に辞める結論を出せたことは、むしろ賢明な判断だったと思う。
昔から石の上にも三年という格言があるが、よっぽどやりたいことがあって始めたことならまだしも、右も左もわからない状態でスタートした時点で今回のような状況に追い込まれてしまったのなら、精神的に辛いのを我慢してまで頑張るような社会ではなくなってきた気がする。
内向的で我慢強い子なら暫くの間は無理して頑張ろうとするが、結局、心を病んでリスタートが切れなくなるような状態でリタイアするのがオチだ。
石の上に三年も座っていたら、地主にはなれるが恥ずかしい痛みと戦う日々を過ごすことになる(by経験者)。
君はまだまだ若く、人生は始まったばかり。
無理だと思ったらサッサとケツを上げ、次の世界に向かったほうが無駄な時間を過ごさなくて済む。
ハイ次行ってみよー
すぐに気持ちを切り替えることができた彼女の決断力を褒めてあげた。
人生は椅子取りゲームの連続
とは言え、上司ガチャや人間関係ガチャはこれからも常に発生する。
たとえ当たりを引いてポジションを得たとしても、突然、※フルーツバスケット!が響き渡り、何度も椅子取りゲームをしなければいけないのも世の常。
※子供の頃の椅子取りゲーム:椅子に座れなかった鬼役が「フルーツバスケット!」と叫ぶと皆が一斉に椅子から立ち上がり再ゲームとなる。それが連続するとカオスになってしまう。それでもどんくさい鬼役は座ることができずに、そのうち泣き出してしまう。
なので、これからいろんなことにチャレンジし、自分の進むべき方向がきちんと定まったら、その時は強引にでも椅子を横取りして、手に入れたポジションを決して明け渡さないように戦い続けるガッツがなければ生き残ることは難しいかもよ。
などといったオジサンの説教話を、彼女は上カルビをモグモグと頬張りながら神妙な面持ちで一生懸命聞いてくれた。
過去、現在、未来
その後は仕事の話は脇に置き、お互いのプライベートな黒歴史の暴露話で大いに盛り上がり、笑い転げながら追加の肉をどんどん平らげた。若いだけあって遠慮なく肉を頬張る姿に、オジサンは単純に嬉しかった。
パパ活しているオヤジの気持ちがほんの少し理解できた。
今どきの大学生は半分くらいの学生が奨学金を借りているそうな。
奨学金といえば返済義務のない給付型のお金を思い浮かべるが、今どきの大半の奨学金は学生ローンと同じで、卒業と同時に毎月返済に追われることになる。条件によっては利息の付かない無利子型もあるが、有利子タイプだと利息を含めた金額を返済することになるので、実態はサラ金と変わらない。
そんな奨学金という名の借金を彼女も卒業と同時に毎月返済しているとのこと。
社会に出た瞬間からマイナススタートとなり、これから何十年かけて返済していくようだが、在学中からバイトを何個も掛け持ちし、必死に繰り上げ返済をしている日々だという。
カツカツの身なりからは日々質素にやっていることは容易に想像できた。
それでも笑顔を絶やさずに人と話せるのは、飲食店のバイトで培った経験が生きているのだろう。
その過程で嫌な出来事もたくさんあったようで、いまだに思い出しては眠れぬ日々が続いているという。
どんなに思い悩んで後悔しても、過去を変えることはできない。
未来をあれこれ案じても先のことは誰にもわからない。
だからと言って、今を悶々と過ごしていても時間だけが過ぎていく。
未来は【今】の積み重ね
今を前向きに楽しk過ごしていけば、君の未来もきっと光が指してくるよ。
僕の人生谷あり谷ありで、どっぷりと深みにハマり、七転び八転びの転んでばっかりの人生だけど、その度になんとか起き上がることができたので、今は深い谷を抜け、穏やかな海にたどり着いたよ!
大切なのは、
何度転んでも自分の足で立ち上がること!
そんなオジサン臭い話を真顔で聞いてくれた彼女が、突然真っ直ぐ目を見て問うてきたのがタイトルの言葉だった。
ささやかな餞別
ラストオーダーの頃、彼女に餞別を渡した。
えぇ~ これなんですか~?
ストラップ式のIDカードホルダー
生地が痛むから一張羅の服はこれからも大切に着て、次の会社が決まったらコレを首からかけてガンバレ!
元請けから貸与されたIDカードを安全ピンで服に留めていたのが気になっていた。
笑顔で袋から取り出した途端、彼女は号泣した。
それまで猫を被り、一生懸命背伸びをして必死に気を張っていたのが、等身大の素直な若者に戻った瞬間だった。
店をあとにし、駅の改札で彼女へエールを送る。
今までで一番素直な笑顔で彼女はうなずき、反対方面のホームに消えていった。
その背中を見送りながら、そういえば連絡先を聞いていていなかったことを思い出したが、一期一会の出会いはこれでいいのだ、、、
で?タイトルの質問にはなんと答えたのか?って
今はとても幸せだよ!
即答できた自分が嬉しかった。
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