新緑薫る5月。ワンコが無事に1歳を迎えたので、ご褒美に水元公園のドッグランで思いっきり遊ぼうと車で出かけたが、駐車場で車を止めようとして事故ってしまった。
静かな車内
今回、妻は同行せず自分とワンコだけのドライブだ。助手席にバッグを乗せシートベルトでしっかり固定し、更にワンコが飛び出さないようバッグ内部の紐を首輪に着け、今まで以上に最大限の安全運転で行くことにした。

この日は初夏を思わせるような暑さで、エアコンを掛けながらのんびりと街中を走らせていた。今回借りた車はハイブリット車なので、街中をゆっくり進んでいる状態だとEVモードで動くため、車内はものすごく静かだ。出発してすぐに車内は涼しくなりワンコも寛いでいる。エアコンのコンプレッサーもじきに切れ、車内はロードノイズだけが響く程度だった。
15分ほどで水元公園に到着し、チケットを取り駐車場内を最徐行で進む。平日の午前中ということで三割程度の駐車具合だったが、できるだけ園内に近い場所を探していると、タイミングよく公園入口近くに数台空いている場所が見つかったので、ゆっくりと車を進めていった。
駐車場は一定間隔に段差が設けられており、最徐行で進まないと段差に乗り上げた時に突上げが酷くなるので、アクセルは踏まずペダルに足を乗せているだけの惰性で進んでいた。
それでも段差に乗り上げるたび、ゴトン、ゴトンと一定間隔で車が大きく揺れるので、できるだけ音を立てず、ワンコを怖がらせないように更にゆっくりと車を進めた。
目標の空きスペースに近づいたので、車をバックで入れようと思い、一旦ハンドルを右に切り始めたタイミングで前輪が段差に乗り上げた。
その瞬間、エアコンのコンプレッサーが動き出し、同時にエンジンの回転数が一気に上がった。すると突然、車がものすごい勢いで急加速し、右側の空いている駐車スペースめがけて突っ込んでいった。
何が起こったのか判断が付かぬまま植え込みの木がどんどん迫ってくる。わずか数メートルの距離なので、ブレーキを踏むまもなく、ただハンドルをしっかりと握り、車体がふらつかないようにすることしかできなかった。
あっという間に車止めを越え植込みに突っ込み、車体の右前方が立木に激突して止まった。



この間、わずか1~2秒の出来事だったが、衝突の瞬間ものすごい音がしたようで、車内で呆然とていると、駐車場入口の小屋から管理人のおじさんが飛び出してくるのが見えた。
その姿で我に返り隣のワンコに目をやると、何が起こったのかわからない様子でバッグから怯えた顔を覗かせていた。
「ごめんなー」
と謝り、急いで車外に出ようとしたが、ドアが開かない。ぶつかった衝撃でフレームが歪んでしまったようだ。
体当たりを何度か試していると、ようやく半分ほど隙間ができた。急いでバッグごとワンコを車外に連れ出し、地面にバッグを置きワンコの体を確認すると怪我をしている様子は無く、何事もなかったかのように笑っていたので、ひとまず胸を撫で下ろした。

急ぎ足でやってきた管理人のおじさんに状況を説明し、その後、警察、レンタカー会社などに連絡して事後対応を進めた。
車はどう見ても自走不能状態だ。レッカーが到着するのを待つ間、何事もなかったかのように閑散としている駐車場の一角で時間を潰していると、改めて今回の事故に関して違和感が湧いてきた。
事故の状況

・青い矢印に沿って徐行
・黄色いエリアに駐車しようと思っていた
・向かい側が空いていたので、一旦ハンドルを右に切り、バックで入庫するつもりだった。
・黄色い段差に乗り上げたと同時に赤い矢印方向へ急加速
Googleマップの画像では車がビッシリ止まっているが、当時は事故エリア、駐車予定エリア含めほぼ空いている状態。見通しの良い場内には人もおらず、予期せぬ状況は考えにくい。
ロケットのような加速
前輪が段差に乗り上げた段階で突然急加速したのだが、今までに体験したことのないような、強烈な加速だった。
10代のころから車は大好きだったので、高校時代は整備工場でバイトに明け暮れ、高校3年にあがるとすぐに免許を取った。それから色々な車に乗る機会があったので、車の挙動には車ごとのクセが有ることもわかるし、加速に関しても、改造車からポルシェまで様々な車で体験していた。
若気の至りで大きな事故を起こしたこともあるが、結婚を気に安全運転を心がけ、ここに二十年ほどはゴールド免許を維持している。最近はワンコが家族となったことで、更に安全運転に徹することにしていた。
そうした経験をもってしても、今回の急加速は今までに体験したガソリンエンジン車ではありえないような強烈な加速だった。例えるなら、最新型のジェットコースターのスタートダッシュ(止まった状態から一気に飛び出す)のような感覚だった。
最近の車はハイブリット車が主流になっており、レンタカーでもほとんどがガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリット車が一般的だ。街中ではエンジンではなく電気モーターで動くほうが燃費もいいし、キビキビ走るので静かだし乗り心地も良い。
ただ、メーカーによってモーターとエンジンとが切り替わるタイミングはまちまちで、初めて乗る場合は多少戸惑うことはある。今回借りた車は以前から何度も乗っていたので、街中、高速、共にクセは把握しているつもりだったが、今回の急加速は想像を超えていた。
いくつかの要因が重なると、、、
駐車場内では電気モードで走行していた。アクセルを踏まなくても、ペダルに足を乗せているだけでスルスルとゆっくり進んでいく。
段差を乗り越えるときもアクセルを踏むという感覚ではなく、足裏全体でペダルを意識するような感覚で乗り越えることができていた。
そして問題の段差に差し掛かった時の状況を整理してみると、
・段差に乗り上げたと同時にハンドルを右に切った。
・その瞬間、エアコンのコンプレッサーが作動してエンジンが唸りを上げた。
・右に急旋回し、更に加速
・その後、制御不能
それまでの、直進時に段差を乗り越えたときの挙動とは明らかに違っていた。
今回の状況は、ハンドルを切る動作とエアコンのスイッチが入る動作がほぼ同時に起こっている。パワーステアリングもエアコンも動力源はエンジンからもらっている。たまたま2つのタイミングが重なったことにより、なんらかの作用が働きエンジンが一気に高回転となり暴走した。
昔のガソリン車の場合、上記のような状況になると、エンジンに負荷がかかりすぎ、動力不足でエンストしてしまうこともあった。そういった特性がハイブリット車は改善され、エンストしないような仕組みがあるのかもしれない。
問題は、その仕組が何らかのタイミングや複合要因で強力に作用してしまい、予期せぬ急加速に繋がってしまうのかもしれない。
近年、ハイブリット車の普及にともない、コンビニの駐車場やスーパーの駐車場などで、車が店内や壁に突っ込む事故が多発している。その多くがハイブリット車のようだ。
複雑な山道などで事故るのは技量不足だが、最徐行している駐車場内で壁や店舗に突っ込んでしまうような動作は不自然といえば不自然だ。
事故を起こしたドライバーの年齢が比較的高齢者が多いのは、免許取り立ての技量不足というより、むしろ、若い頃からガソリン車に乗り慣れているがゆえに、ハイブリット独特な挙動に体が追いつかなかったのではないだろうか?
もちろん、加齢に伴う反射神経の衰えや、アクセルとブレーキの踏み間違えもあると思うが、今回の事故当時、ブレーキは踏んでいない。ただ、アクセルも踏んでいなかった。アクセルペダルに足を乗せていただけの惰性で動いていた。
それにもかかわらず突然急加速し、コントロール不能な状態に陥ってしまった。
何のための安全装置?
ハイブリッド車は世に出てからまだ日が浅い。
メーカーはあらゆるテストを経て世に送り出していると思うが、まだまだ未知の領域があり、何らかの条件が重なると、運転手の意図せぬ急加速が起こってしまうのではないか?
決して自己弁護をするつもりはないが、そんなことをレッカー車が来るまでボンヤリと考えていたら、公園から車に戻ってきたおじさんに話しかけられた。
「派手にやったねー、怪我はない?」
事故の状況を詳しく説明すると、意外なことを言われた。
「それにしては、エアバック出てないね」
おじさんに指摘され、ハッとした。

若い頃に事故った時は、エアバックなどの安全装備が世に出る前だったので、最近の車はエアバックが標準装備なのをすっかり忘れていた。
エアバックが動作する実験動画などを見ていると、実際に体験したらどんな感覚なのか結構ワクワクしていたが、残念ながら、その機会は逃したようだ。
よくよく考えてみると、エンジンと前輪の間に立木がめり込み、ドアが開けられないほどの衝撃なので、エアバックが飛び出すものと思ったが、実際には作動しなかった。この程度の衝突では作動しない仕様なのか?
何のための安全装置なのだろう?
メーカーは市販用とレンタカー用で仕様を変えているのだろうか?
近年、様々な状況で痛ましい事故が発生し、その度に安全重視が声高に叫ばれているが、その対策はまだまだ信頼できる状況には無いようだ。
おじさんが去り際に言った。
「意図しない急加速や、これだけの衝撃でもエアバックが開かないのは、車自体に何らかの不具合があったのかもね」
プロの意見
そんな世間話で時間を潰していると、ようやくレッカー車がやって来た。
事故の状況を確認した作業員のおじさんによると、立木にかなり食い込んでいるので、牽引して引き出せなかったら改めてクレーン車に来てもらい、車ごと吊り上げて回収することになるそうだ。
もしそうなったら更に時間がかかるなーと心配したが、慎重に作業していただき、何とか引き出すことができた。




作業の合間にエアバックが出なかったことを話すと、
「センサーは前方二箇所にあるはずだけど、ギリギリかすめたのかな?それにしても、これだけの衝突で動作しないのは初めて見たな~」
と首を傾げていた。




小一時間ほどの作業後、事故車はレンタカーに牽引されながらゆっくりと駐車場から出ていった。その様子を見ていると、去り際に作業員のおじさんが言った一言がいつまでも頭から離れなかった。
「自分はハイブリット車には絶対乗らないね、、、」
不幸中の幸い
今回の事故は予想外の挙動で自爆してしまった。その原因が自分にあるのは勿論だが、車の整備不良も要因の一つだったのかもしれない。もし、自家用車だったら詳しく調査してもらうことも考えられるが、レンタカーということで免責保険に加入していたこともあり、その場で全てが片付いてしまった。
あっけない幕切れとなったが、ワンコも自分も怪我をせずに済んだことに安堵し、それ以上に、一歩間違えば他人を巻き込む大惨事に繋がるところ、他の誰も巻き込むこともなく、隣の車にも傷つけることなく済んだことは不幸中の幸いだった。
後日、友人に事の顛末を告げると、「強運ではなく、豪運の持ち主だな」と言われてしまった。言われてみると、今までの人生、何度も深い谷底に落ちそうになったこともあるが、その度になにか大きな力に救われているような気がする。
これもなにかのサインなのだろう。誰も傷つけず、ワンコも自分も無事で済んだことを感謝し、足元のワンコを見ると、駐車場で待ちぼうけを食らっていたので遊びたくてしょうがないようだ。
よし、せっかく来たのだから落ち込んでいないで、公園で思いっきり遊んで帰ろう!

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