二十歳のときからお世話になっていた扇風機。
35年の寿命が尽きてしまった。
「オマエは物持ちがいい」
と周りからよく言われる。
確かに、10年、20年と使い続けてるモノは多いが、どれもが何故が壊れない。
そうすると愛着が一層湧いてくるので益々使い続けることになる。
そんな中でも、この扇風機はダントツに使い続けてきた。
当時は西日が強烈な部屋に住んでおり、エアコンもない部屋だったため夏は灼熱地獄。
せめて風を浴びようと近所の家電量販店で購入してきた。
値段は3千円程度だったと思う。
国内のメーカー品はもっと高かったが、最低限の機能があればOKということで、当時はまだ珍しかった中国製の謎のメーカーにしてみた。
強弱3段階、首振り、そしてタイマーという扇風機としての機能は十分果たしていた。
何度か引っ越しを繰り返し、当時の恋人(今の妻)の部屋に身一つで転がり込んだときに持参したのが、この扇風機とそば殻の枕一つだった。
その頃の妻はロフトのあるワンルームに住んでいたが、ロフトは熱がこもりやすいので,この扇風機が大活躍してくれた。
20代最後の歳
同棲した頃にタイマーが壊れた。
頭が少しボケてきたのだろうか。
それでも別段不便は感じなかった。
夜通し、静かに部屋中にそよ風を送り続けてくれた。
30代前半
妻と籍を入れ、今のマンションに引っ越して数年後に支柱のバネが壊れた。
支柱が疲労骨折してしまった。
それでも別段不便は感じなかった。
ダイニングで使っていたので、高さは固定して首振り機能だけで十分だった。
妻もハートマークを着け、可愛がってくれた。
40代前半
甥っ子たちが遊びに来た時、部屋で走りまわっていたら扇風機に躓き、モーター部分のケースが大破してしまった。
表面が複雑骨折してしまった。
それでも別段不便は感じなかった。
劣化して破損したプラスチックのモーターカバーの上からアルミの補強テープを巻いたらなんの問題もなかった。
50代前半
首振り機能が怪しくなってきた。
左右に首をふる度に、時折コキン、コキン、と異音を出すようになった。
関節炎が発症したようだ。
それでも別段不便は感じなかった。
上下の角度を上方向に固定してあげると異音も発生せず、一生懸命首を動かしてくれた。
そして数年前から首振り機能が遂におかしくなった。
どの角度にしても首を動かすと異音が発生し、首を振ったり振らなかったり気まぐれになってきた。
遂にリウマチになったのか?
それでも別段不便は感じなかった。
ダイニングから仕事部屋に移動し、サーキュレーターとして静かな余生を送ることになった。
2021年
コロナ自粛で仕事部屋に籠もっていた夏。
この夏も穏やかな風を出し、静かな余生を送っていた。
夏が終わり衣替えの時、
今年もよく頑張ったなと労い、押し入れに仕舞おうとした時に異変が起こった。
持ち上げると全体からプラスチックの破片がポロポロと落ちてくる。
アルミテープで補強したモーターカバーをほんの少し押しただけで、その部分が窪んでしまうくらい劣化していた。
骨粗鬆症の末期状態のようだ。
それでもスイッチを入れると、健気に風を送ろうと静かにファンが回りだす。
来年の夏もなんとかもつだろうか?
イヤイヤ もう十分頑張った!
これ以上の延命措置は酷というものだろう。
君は十分過ぎるほど頑張ってくれた。
20代の一番苦しいときは爽やかな風を贈ってくれた。
30代の新しい生活が始まったときは新鮮な風を贈ってくれた。
40代の彷徨っていたときは真っ直ぐ進むように風を贈ってくれた。
50代の人生の折り返し地点では仕事部屋で静かに風を贈ってくれた。
そして今年、扇風機としての引導を渡すことにした。
35年の長きに渡り、辛いとき、楽しいとき、
いつも側にいて心地よい風を贈り続けてくれてありがとう!
これからは昨年に我が家にやってきた新しい扇風機が活躍してくれることだろう。
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