一歳の誕生日も無事に過ぎて、普段はめったに吠えることもなく、穏やかに過ごしているワンコだが、唯一、別犬かと思うくらいに豹変する時がある。
一年ほど前、散歩デビューに備え、狂犬病の予防接種を行うべく訪れた近所の動物病院。
待合室では尻尾を振って楽しげだったが、外耳炎と診断されて耳に綿棒を入れられた瞬間、
【キャイ~~~ン!】
と咆哮が響いた。
聞いたこともない音量で叫び周囲を驚かせたが、その後は何事もなかったかのように穏やかに診察を終えることができた。

それから月に一度、定期検診も兼ねて動物病院にお世話になっている。
二度目の訪問時も、診察台に乗るまでは何事もなく過ぎたのだが、スタッフにホールドされ先生が耳に綿棒を入れた瞬間、人間の鼓膜が破れるかと思うくらいの絶叫モードになり診察を一時的に中断することになってしまった。。
この小さな体のどこからそんな大声が出るのかと思うくらいの、待合室を通り越して、外の道路にまで鳴り響いているであろうと思われるような強烈な叫び声だ。
なんとか落ち着かせようと、顔を近づけて頭を撫でたりするものの全く効果はなく、その絶叫が診察を終えるまで続くので、一時的に耳が難聴になるくらいだ。
柴犬の激しい気性が炸裂した様子を間近に見ることになった。
診察自体は数分で終わるのだが、全身から冷や汗が滝のように流れてる状態で待合室に出ると、他の飼い主さん達は驚愕の表情を浮かべ、連れているワンコ達はガクブルと震えている。
そんな他の飼い主さんたちに平謝りして会計を済ませ外に出ると、当のワンコはほんの数分前まで荒れ狂っていた絶叫マシーンはどこへ行ったのかと思えるくらい、まるで何事もなかったかのようにニコニコしながら近所の公園に向かってスタスタと病院をあとにした。
その後も、毎月の定期検診では別犬かと思えるくらいに激しく豹変する我が家のワンコだが、たまたま同じ時間帯に他の柴犬も順番待ちしているような時などは、うちのワンコに影響され、病院が大絶叫大会の開催場所になってしまう。
その中でも、ダントツの絶叫犬が我が家のワンコだ。体の大きな柴犬の咆哮に比べても次元の違う叫び声が鳴り響いてる。
先生曰く、殿堂入り確定だそうな。
柴犬は、家庭で飼える野生動物と言われるくらい野生の気性を色濃く残している犬種ということで、意思に反して拘束されたり、束縛されたりするのが大嫌いなようだ。
どんなに直前までニコニコしていても、なにか少しでも気に食わないことがあると、突然キレてしまう気質のワンコは多い。
我が家のワンコも成長するに連れ柴犬気質が出てきたようで、嫌なことは徹底的に嫌がる。例えば、ハーネスはおろか、冷感シャツなども着せる素振りを見せようものなら激しく抵抗するので、オシャレな服を着てもらうことは諦めた。
このあたりが、柴犬は飼いづらいと言われる原因の一つだろう。一筋縄ではいかない犬種だ(そこが良かったりもする)。
病院での診察でも、はじめのうちは看護師さんに抱っこしてもらって心地良い表情を浮かべていたのだが、[抱っこ=綿棒]ということがわかってからは、毎回、抱っこされた瞬間に絶叫し暴れるようになってしまった。
そんなワンコに対応すべく、我が家のワンコが診察室に入ると受付のスタッフまでもが診察室に入ってきて、スタッフ総出(三人)でワンコをホールドし、事故がないように気遣ってくれる。
先生曰く、綿棒を挿れられること自体は痛いわけではないと言うことだ。痛くて叫んでいるのではないことが、せめてもの救いだろう。
ワンコからすれば、意に反して身動きできない状態で、耳に異物を挿れられることが耐えられないようだ。
とは言え、先生曰く、こういう機会もワンコの社会化には大切な経験なので、恐れずにきてください。と説明された。先生稼業も楽ではなさそうだ。
確かに、今後、なにかの怪我や病に罹ったときは動物病院にお世話になるので、今のうちから慣れさせることは大切なことだ。絶叫しながら牙を剥いて激しく抵抗するが、それでも噛もうとはしないところは褒めてあげよう。
そんなわけで、月に一度だけ、絶叫マシーンに豹変するワンコだが、懲りずに診察してもらう回数が増える毎に、少しずつ、落ち着きが出てくるようになった。
それまでは、診察台に乗りスタッフがホールドした瞬間から絶叫が炸裂し、その咆哮が診察台を降りるまで続いていた。
そんな絶叫マシーンだが、診察台を降りるとコロリと態度を変え、何事もなかったように振る舞っている。
嫌なことがあっても、いつまでも引きずらない性格なのも柴犬の特徴のようだ。
この気持ちの切り替えの速さは是非とも見習いたいものだ。
そんな我家の気まぐれワンコだが、夏頃から絶叫モードがほんの少しだけ変化の兆しを見せ始めた。
診察台に載せられ、スタッフにホールドされるまではムキっ歯で拒否反応を示すものの、その後に先生が耳を触った時だけ絶叫モードになり、耳から手を離すと、再びムキっ歯レベルまでトーンダウンするようになってきた。
それでも絶叫中は難聴になるくらい叫んでいるが、ほんの少しずつ、絶叫タイムが縮まってきたのだ。
それまでは絶叫中のワンコを写真に収めるような余裕は無かったが、前回の診察では絶叫の間を利用して診察中のワンコの姿を写真に収めることができた。



この先、診察の回数を重ねていけば、はじめの頃のように穏やかに診察を終えることができるようになるだろうか。
それでも、柴犬特有の、野生動物を彷彿とさせる気性の激しさを垣間見れる貴重な機会と思えば、それはそれで愛おしいひとときだ。

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