5月初旬に訪れた北海道最西端の町へ再び出張となった。
二週間の滞在中、土日は休みが取れたのでキャンプを楽しもうと思ったが、、、
温泉ホテル
前回は町中にある旅館に宿泊したので、今回の出張では第一週を町で唯一の温泉併設ホテルに泊まり、週末はキャンプで過ごし、第二週目を海辺の民宿に泊まるというプランにした。
ホテルの隣が仕事先なので、早朝は野鳥達のさえずりをBGMにウォーキングを楽しみ、仕事を終え宿に戻ってから明るいうちに汗を流せる。
ホテル併設の温泉施設は天井が高く開放的な雰囲気。泉質はほんのり塩気を感じる塩泉で、ぬるめから熱めまで色々な浴槽があるので飽きることがない。地元の人達も日帰りで多く利用しているようで、出る時は椅子や桶をかたして出ていく。
非常にマナーが良い。
食事もホテル併設のレストランで取れるので、今回の出張中は活動半径が100メートルくらいで日々が過ぎていく。
仕事先が都内近郊の場合は、混雑した電車に揺られ忙しなく行動することに比べると、田舎での長期出張はとても楽ちんだ。
とはいえ、あまりにも仕事先が近すぎると体がなまってくる。部屋の窓を開けても目の前が住宅なので気が引けてしまう。
なので、気晴らしに週末はテント担いでキャンプ場まで歩いていこうと思っていたが、、、
熊との共存
金曜日の朝、仕事に出る前にゆったりと珈琲を飲みながら地元のテレビニュースを観ていると、町の民家の直ぐ側で熊の足跡が見つかったとのこと。住所を調べてみると、キャンプ場のすぐ隣だ。
本来、熊は臆病な性格で、市街地に出てくることは稀だった。ところが、ここ数年、各地で熊の出没が相次ぎ、街中で熊に襲われ怪我人も発生している。
色々な原因が考えられるが、近年のキャンプブームも熊が頻出するようになった原因の一つだろう。残飯などをキャンプ地に放置するマナーの悪いキャンパーのせいで、人間の食べ物の味を覚えてしまったのだ。好奇心旺盛な熊が残飯を求めて、人間のテリトリーに出没してくるようになったようだ。
登山やキャンプでは食料の管理は徹底して行うことが大切だ。残飯が出ないような調理を心がけ、生ゴミなどはジップロック等にキッチリと保管し残さず持って帰る、or、キャンプ地の指定ゴミ捨て場にキチンと捨てる。
北海道では食料管理の徹底しているキャンプ地が大半で、昨年訪れた大雪山系ではリップクリームさえもジップロック等で匂いが漏れないようにしてくださいと注意を受けた。それでも熊の出没頻度が増している。動物たちが暮らすテリトリーに人間がお邪魔するような場合、タヌキやキツネに対して、可愛いからと食料を与えたりするなどもってのほか!
とは言え、最低限のマナーを守っていても出る時は出る。野生動物のテリトリーに入っていくのだから覚悟は必要だ。
一応、熊よけスプレーも持参してきたが、仕事を終えた後ならまだしも、仕事の合間なのでトラブルは厳禁。万が一、熊と遭遇して怪我でもしようものなら翌週の仕事に差し支えてしまう。地元の人に聞くと、このエリアでも数年前には人が熊に食い殺されているそうな、、、
なので、夜間や早朝などは徒歩での外出は控えているとのこと。どうりで町中で歩いている人を見かける頻度が少ないと思った(単純に人口が少ないからというわけではなさそうだ)。
東京に住んでいるとローカルニュースはなかなか入ってこないが、地元の人のアドバイスは素直に従うことにしよう。
週末のキャンプは諦めることにした。
代わりに週末から海辺の民宿に宿移動し、ノンビリ過ごすことにした。
目の前が海の絶景宿
旅館と民宿の違いはよくわからないが、料理でいうと旅館>民宿というイメージだろうか。いずれにしても一週間のビジネスプランなので、普通に食べられれば良しとする。
土曜日の朝にホテルをチェックアウトしてバス移動。と言っても15分程で海沿いの民宿に到着してしまう。早く着きすぎたので荷物を預かってもらい、目の前の浜で珈琲タイム。
絶好のキャンプ日よりだったが、浜辺で寛ぐのも十分ありだ。
もともとのキャンプ場は民宿そばの小高い丘の上だったが、この浜辺でテントを張っても十分楽しめそうだ。ただ、波消しブロックが置かれているので天候が荒れると波が打ち寄せてきそうな地形だった。幸い、この時期は穏やかな波が砂浜に打ち寄せ、目の前の三本杉岩を寝床にしているカモメ達が賑やかに飛び交っていた。
早めのチェックインを快く引き受けてくれ、部屋に通されると一番広い角部屋だった。
窓からは先程寛いでいた海が広がり、もう片方の窓からは丘の上の風車を眺めることができる。窓を開放すると、潮騒とカモメの鳴き声が心地よい潮風とともに部屋を満たしてくれる。
最高のロケーションじゃないか!
開放感溢れる部屋で荷物も解かず寝転がっていると、いつの間にか寝落ちしてしまい、気がついたら夕暮れだった。
記憶に残る食事
前回の町中にある旅館では毎回同じような筋肉飯だったが、今回の宿では日替わりメニューが供されるとのこと。
一階の食堂に入ると予め席が決まっている。ご飯と味噌汁は食べ放題で、メニューボードに今晩の献立が記載されており、読んでいるだけでも食欲が湧いてくる。席につくと、頃合いを見計らって熱々のおかずが運ばれてきた。
特に奇をてらった料理ではないが、普通の献立がどれもがメチャクチャ美味い!
海辺の民宿なので魚メインかと思いきや、野菜、肉、魚、ご飯、汁物、小鉢に至るまで、一つ一つの素材がとても新鮮で、バランスよく丁寧に調理している。
普段、ご飯は軽めに摂っているが、思わずおかわりしてしまった。
夕食を終え大満足で部屋に戻ると、潮騒の音に包まれそのまま爆睡してしまった。
大地に命を吹き込む
翌朝、軒下から溢れ落ちる雨粒の音で目が覚めた。
天気予報は終日雨を告げている。開け放たれた窓からはひんやりとした潮風が入り込み、温々の布団にすっぽりと包まり、自然の音が奏でるBGMをボンヤリと聞きながら至福のひとときを過ごしていた。
バナナと牛乳の軽めの朝食を頬張り、再び布団に包まりウニウニと過ごす。
もし、週末をキャンプで過ごしていたら、雨に濡れながらの撤収となっていたので、結局、キャンプはするなということだったのだろう。自然のサインに耳を傾け、素直に身を任すのが一番だ。今までいろんな災害を直前や直後に免れていたのは、こういう気持ちが大切なのだと思う。
昼頃、雨が小康状態となったので、すぐ側にあるドライブインでランチを摂ることにした。前回訪問時は行列では食べられなかったピザを焼いてもらうことにした。
注文ごとにピザ窯で焼かれる熱々のピザはとびきり美味だった。静かな店内で読書を楽しみながら午後のひとときを過ごした。
夕暮れ時、雨が上がったので港まで散歩していると、潮騒と共にどこからともなくバイオリンの音が聞こえてきた。はて?人のいない寂れた港のどこから聴こえてくるのだろう?
キタキツネが走り回っている港の奥、防波堤の突端に目をやると巨大な岩がそそり立っている。ローソク岩という奇岩らしい。そのねもとに祠があり人影が見える。近づいてみると、一人の女性が祠に向かってタイスの瞑想曲を弾いていた。
とても美しい音色だった。
通常、ひらけた野外で音を出すと四方に音が散ってしまい、全然響かなかったりするが、不思議なことに音は散っておらず、波の音にかき消されることもなく余韻まではっきりと響いている。どうやらローソク岩が反響板の役目を果たしているようだ、耳を傾けていると、まるで岩全体がバイオリンの美しい音色に共鳴しているようだ。
最後の余韻が消え、静かに拍手をすると、驚いたように振り返りお辞儀をしてくれた。
ほんの数分間の出来事だったが、素敵なひとときを過ごすことができた。
夕食時になり宿に戻ると、先程のバイオリニスト一行がチェックインの手続き中だった。お互い驚きと笑顔で会釈し食堂に入る。
今夜の食事もすこぶる美味かった。
ゆっくりと味わっていると、バイオリニストが付き人やマネージャーと思しき人達を従え、向かい側のテーブルに着席してきた。卓上はビジネスプランより遥かに豪勢なメニューが並んでいた。最終日は夕食をアップグレードしてもらうのもいいかも。
食事を終える頃、バイオリニストと話す機会があり、先程の演奏の目的を話してくれた。
ローソク岩の先端から地球の中心に向け、音楽のエネルギーを注ぐという趣旨のイベントとのことだった。
確かに、心のこもった演奏だった。聞いているだけでも十分にエネルギーを貰えた気がする。
充実した日々
今回の宿では、目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めてしまう。
潮騒の音がなんとも心地よく、美味い食事で自然と眠りに落ち、朝まで超熟睡していたようだ。これだけ気持ちよく目覚めを迎えることができたので、仕事先までバスではなくウォーキングで通うことにした。片道7キロ程、1時間の行程を朝と夕方、元気にウォーキング。
前回とは違った花々が朝日に照らされ、更に元気を与えてくれる。
午前中からスッキリとした気分で仕事に勤しみ、夕暮れ時に再びウォーキングで心地よい汗をかきながら宿に戻ると、水平線に沈む美しい夕陽が出迎えてくれる。
たっぷりとマジックアワーを堪能した後は、すこぶる美味い夕食が待っている。
身も心も満たされた状態で日々を過ごすことができた。
食の大切さ
週の中ほど、食後に女将さんと話す機会があった。
もともと先代が営んでいる時は魚メインの民宿だったが、先代が亡くなり跡継ぎもなく、暫く空き家になっている時に縁があって受け継いだそうだ。女将さんはもともと農家ということもあり、民宿経営は素人でのスタートとなったが、魚はもちろん、肉や野菜もバランスよく、安心安全なものを食べられるよう食事を工夫しているということを熱く語ってくれた。
そのような女将さんのもとで、若い従業員たちも大変テキパキと元気に従事している。
地方から来た農家の若い衆が住み込みで働いており、昼は近くの農地で野菜や米作りを手伝い、夕方は宿で接客を学んでいるそうな。自分たちが作った作物を、どんな人がどのように食べているのかを学ぶことできて、とても勉強になるとのことだった。
その想いは確かに料理に生かされていた。
揚げ物の添え物一つにしても超絶新鮮な葉野菜が敷き詰められていたり、刺し身のつまさえも無農薬の大根を千切りしている。
これくらい食に拘り、しかも目の前の絶景を楽しめるような有名所の観光地では1万円以上するところだが、ビジネスプランでいただけるのは破格のおもてなしだ。長期滞在のリピーターが多いのもうなずける。
豪華な食事ではなく、普段の食事をキチンと安心して食べられるような宿。
長期間の出張は、淡々味気ないと日々を過ごすことが多いが、今回の出張は、仕事を終え、宿に戻るのが楽しみと思えるような日々だった。
このような宿はこれからどんどん増えてほしいものだ。
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