カムイミンタラ -神々の遊ぶ庭で過ごした日々- 黒岳石室野営場

登山

三日目の朝も自然と目が覚めた。
山の中で数日間過ごしていると明るくなると目が覚め、暗くなると眠くなる。

自然のリズムが蘇ってくるようだ。

今日は最後の目的地、黒岳石室のテント場まで縦走することになる。

ヒグマの遊び場

日が昇り始める前に起き出し、避難小屋のベンチでぼんやりとモルゲンロートを眺めていた。

隣に座っていたカップルが双眼鏡を手に楽しげに会話をしている。

「ほらーあそこにいるよ!」

「どこどこ?」

話の輪に加わってみることにした。

jinjin
jinjin

なにか見えますか?

山ガール
山ガール

縦走路の脇で子熊が遊んでるんですよ

彼女が双眼鏡を貸してくれ場所を教えてくれた。

jinjin
jinjin

!!!

縦走路脇の雪渓で子熊の黒い形がチョロチョロと動いている。

その子熊が雪渓から縦走路を横切り、見通しの良い砂地をゴロゴロしながら走り回っている。

なんとも楽しげなひとときだ。

iPhoneのカメラだとただのゴミにしか写らないのが残念。
(どこにいるでしょう?)

が、子熊がいるということは、必ず近くに母熊がいることになる。

大きな個体は見えなかったが、きっと草むらの影に隠れて子熊を見守っているのだろう。

もし早立ちの縦走者が子熊と鉢合わせしていたら、、、

最近は市街地でも熊の姿が目撃され、人間に危害を加える事例も発生している。

ただ、大雪山系で熊の被害にあったという話は聞いたことがない。

もともと熊は臆病な性格のようで、ここ大雪山に生息しているヒグマも例外ではないらしい。

なので、人間側が熊よけ鈴を鳴らすなどの防衛策を取っていれば、ウッカリ鉢合わせすることもないのだろう。

人間が入り込む以前の太古の昔から、この素晴らしい庭でノビノビと、そしてヒッソリと命を紡いで来たのだ。

カムイミンタラ -神々の遊ぶ庭-

ここはヒグマ達の遊ぶ庭だったのだ。

雪解け水を安全に飲みたい

朝の水汲みはテント場近くの雪解け水を利用することになる。

この時期でも豊富に流れているので目覚めの一杯といきたいところだが、やはり煮沸しなければいけないらしい。

それでも冷たい雪解け水を飲みたいときはどうすれば良いのか?

携帯型浄水器 ロゴス

ここ最近フィルターの性能が上がったようで、いろいろなメーカーが携帯型浄水器を出してきた。

今回携行しているのはペットボトルよりひと回り小さく、マヨネーズのチューブのような素材でボトルを押し出して浄水するタイプ。ザックのポケットにしまっておけばすぐに取り出して飲むことができる。

見えないゴミやある程度の細菌などは除去できるらしい。

水汲みに来ていた他の縦走者も数年前からこれを使っているとのこと。

まぁ猛毒の水を浄水するわけでもないので、喉を潤すくらいなら問題ないだろう。

いつものお気楽な性格が背中を押した。

柄杓で掬いチューブを握り、水の出口に口をつけないようにして流し込む。

美味いーーーーーーーー!

キンキンに冷えた雪解け水で一気に目が覚めた。

食事用は煮沸するとしても、縦走中の軽い水分補給程度なら十分ありだ。

(その後、お腹を壊すようなことはなかった)

連休真っ只中の快晴登山

今日の予定は黒岳の手前にある黒岳石室野営地。

今回もコースタイムは3時間程度。

トムラウシへ向かう早立ちの縦走者を横目にノンビリと珈琲を飲んでいたが、ふと、嫌な予感が頭をよぎった。

今日の目的地は大雪山東側の層雲峡方面から登った場合、最初のテント場。

連日最高の天気に恵まれ、しかも紅葉シーズンの始まる連休中。

メチャクチャ混んでいるのではないか?

、、、とっととテントを撤収し、行動開始。

白雲岳登頂は諦め北海岳の分岐まで戻り、そこから右に折れ黒岳方面に向かうことになる。

昨日歩いた縦走路も微妙に季節が移ろいでいる。

すれ違う縦走者の数もかなり増えている。

北海岳を過ぎると少しずつ高度が下がり、雪解け水が勢いよく流れる川を渡ることになる。

冷たい雪解け水で額の汗を流し、50mほど登り返すと今夜の寝床が見えてきた。

難民キャンプ

お昼前に到着した黒岳石室は想像以上の混み具合だった。

小屋の受付でテント泊であることを伝えると、管理人の兄ちゃん曰く、今年一番で過去最高の混み具合だという。

近年の登山、テントブームのおかげだろう。表情は困惑していたが、嬉しそうな瞳だった。

設営できそうな隙間があるか微妙ということだったが、適当な場所に張ってくださいとのことだった。

早速、小屋を出てテント指定エリアに入ってみたが、

隙間、隙間、、、

、、、ないじゃん!

完全に出遅れたorz

仕方ないので入口横の傾斜地に設営することになった。

隣のテントが壁になるくらい接近しており、フライシートの片側は垂らすだけだ。

設営を終えテント内で荷物整理をしていると、ひっきりなしに足音が横切り全く寛げない。

最終日は体を横たえるだけの寝床になりそうだ。

中秋の名月

お昼時ということもあり、小屋脇のベンチも登山客でごった返していた。

明日は昼過ぎに下山し午後のバスで最寄り駅まで行く予定だったが、この状況だと連休最終日の明日も大混雑が予想される。

最寄り駅まで一日3便しかバスが無いため、混みすぎて乗れない可能性もある。

乗れたとしてもギュウギュウ詰めで1時間過ごすのはカンベン願いたい。

早い便のバスの時刻を調べようにも電波は圏外。

小屋番のお兄ちゃんに相談すると、小屋から一番近い桂月岳頂上はバリバリに入りますよ!とのことだった。

そういえば今夜は中秋の名月だった。

昨夜のほぼ満月も大変素晴らしかったので、山頂で月を愛でながら帰路の予定を再検討することにした。

桂月岳は大雪山系のなかで最も短時間で頂上にたどり着けるとのこと。

小屋から続く登山道の斜面を振り返ると、テントの華が咲いていた。

よく見ると、いつのまにかテント場以外の登山道付近にもテントが張られていた。

遅く着いたほうがスペースを確保できたようだ。

11時過ぎに始発のバスがあることを確認し、あとはゆっくり中秋の名月を楽しむ。

はずだった。

日が沈む頃になると、続々と登山者が登ってきた。

中には赤ちゃんを背負子で背負って登ってくる家族連れもいる。

あっという間に頂上は人で溢れかえった。

ここは高尾山ですか?

静かに月を眺めるのは諦め早々に下山し、小屋横のベンチで夕食を摂りながら同席したソロ登山者と世間話を楽しむこととなった。

一時の語らいを終えテントに戻ると、見事な満月が色とりどりのテントの華を照らしていた。

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