出張先での休日の過ごし方 スノーモンスター達に会ってきた ー後編ー

big-ebinosippo 登山

前編はコチラ

目の前に巨大な雪の塊が現れた。

地蔵山の山頂から熊野岳へはなだらかな稜線上を歩くことになる。

周りを眺めると名峰達があともう少しと励ましてくれる。

蔵王ブルーと雪のコントラストが眩しいくらい気持ちいい。
あまりの気持ちよさにのんきに登っていたが、先程までの無風状態から風がでてくるようになり日差しに照らされていても一気に冷え込んでくる。

体幹を冷やさないよう急いで防寒着を羽織りネックゲーターで鼻の上まで覆うが、それでも隙間風が当たる箇所はヒリヒリとした痛みに襲われてくる。この状態が続けば凍傷になってしまうだろう。
晴れていてもこれだけ寒いのだ。天候が荒れたら想像を絶する寒さになることは間違いない。

暫く進むと巨大な雪の塊が目の前に現れた。

とてつもなくデカイエビの尻尾だが、どうやら避難小屋らしい。

あれ?山頂に向かうはずだったのにいつのまにかコースを外れてしまったか?夏山なら登山道が延びているので道間違いなどは発生しないが、雪山では登山道は雪の下深くに埋まっているのでどこが道だかわからない。
常に地形と方向感覚、時間を意識していなければ簡単にルートを外れてしまう。
今回のように頂上付近がなだらかなだと尚更わかりにくい。
いずれにしても避難小屋を含めたこのエリアが熊野岳の頂上エリアということだ。

今回は結果オーライ。時間もお昼だし腹ごしらえをしよう。

中に入ろうと思ったが、入り口は雪に埋もれ50センチ四方しか開いてない。
匍匐前進しなければ中へは入れそうにない。
スノーシューを脱ぐのも面倒だったので、風が避けられるところに腰を下ろし昼ごはんにした。

刈田岳に向かう稜線と左手のお釜を写したつもりが寒さで手がかじかんでいたのでお釜が逸れてしまった。

それくらい雪山の頂上ではジッとしていると一気に体が冷えてくるので、ノンビリと湯を沸かしている時間はない。出かける前に熱湯を入れておいた山専ボトルでカップラーメンを一気に啜り体を温める。避難小屋に入れたら食後の珈琲をも楽しめたところだが、今回は素早く撤収。

避難小屋を東へ400メートルほど進めば今回の目的地、熊野岳山頂だ。なだらかな山頂なので避難小屋と頂上の高低差は無しに等しい。避難小屋を含めた全体が頂上エリアということだ。

下山時に遭遇した光景

熊野岳頂上からの下山は雪山ならではの道なき道をズボズボと踏み抜きながら普段では行けない場所を通っていた。スノーシューを履いて無ければ決して歩けないような場所でも快適に歩くことが出来る。それでも、時折、腰まで一気に埋まってしまうくらい雪が深かった。


悪戦苦闘を楽しみながら降りていると左手の急斜面付近にレスキュー隊らしき人影が見えてきた。
急斜面の前方を見ながら何やら話し込んでいる。彼らの視線を辿ってみると、崖の上部と途中、下部に何人もの人影が見える。
暫く進んで振り返ると全容が見えた。

どうやら数日前に遭難した単独登山者の遭難現場に遭遇したようだ。

山形に着いた夕刻、地元のテレビニュースで蔵王に単独登山していた者から救助要請が入ったが、吹雪のため捜索できない状態だという一報が流れていた。その後も連日吹雪いている状態が続いていたため捜索不可能な状態が続き、救助要請から五日目になってようやく天候が回復したので捜索が再開しり発見に至った模様だ。
午前中からヘリコプターが盛んに上空を旋回していたのはこのためだったのだ。

当時の状況は遭難者が携帯で伝えてきたようだが、下山中に猛吹雪でホワイトアウトになり方向感覚を失ってしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまったとのことだった。以降、連絡が取れなくなったようだが、その場で救助が来るのを待っていたのだろうか。ビバークの装備があったのかは不明だが、仮にビバークできたとしても五日間、厳冬の冬山で吹雪の中を待ち続けるというのは不可能に近い。

あれこれと思案しながら下っていると分岐地点をいつの間にか過ぎてしまっていた。
予定では地蔵山に登り返す前に左に分岐し樹氷高原駅まで下る予定だったが、分岐の目印が雪に埋もれて全くわからなかった。
結局、地蔵山を右手にトラバースして地蔵山頂駅戻ることにした。
滅多に無い快晴のコンディションでも簡単にルートを見失うのが雪山の怖さだ。
ていうか、そもそもルートらしきルートは無いに等しい。
それが吹雪でホワイトアウトの状態で立ち往生となると、、、

なぜ、そのとき、そこにいたのか?

山頂駅のレストハウスまで戻り、熱々のホットココアで冷えた体を温めながらあれこれ思案していた。

山を登っていると天候が途中から悪化するという状況はよくあるが、当日の天候は朝から吹雪で天候が回復する見込みは無かったはずだ。
とすると、始めから厳しい登山が予想される。
エキスパートのみが許される状況だが、スキルや経験値、装備などは抜かりなかったのだろうか?

熊野岳頂上から東に向かえば400m程で避難小屋にたどり着けたはずだが、遭難者は何故か西方向に進んでしまい、崖から滑落してしまったようだ。

地図を見ると西側が切れたった崖なのでスノーシーズンは特に向かっては行けない方角だ。
ということは事前に地形を把握していなかったのだろうか?
地図や方位磁石も持参していなかったのだろうか??

ホワイトアウトで視界が全く不良だったとしても携帯で救助を要請できたということは、今どきのスマホなら自分の現在地はわかるので避難小屋までの方角と距離もわかるはずなのに、ほんの目と鼻の先の避難小屋ではなく反対方向に行ってしまい滑落、身動き取れなくなり救助要請ということだろうか。

経験値の少ない登山者はスマホアプリで登山地図や行程を把握しようとするが、スマホのバッテリーは寒さに弱い。登る前にフル充電を確認してもいつの間にかバッテリー切れになってることもしばしばあるので紙の登山地図は必須だ。

遭難事故の多くは下山中に起こっているらしい。今回の遭難事故も下山中の事故ということだ。

頂上に到達した達成感から気が緩んでしまったのだろうか、、、

いずれにしても原因は本人しかわからない。
この雪深いなかで発見されたことに合掌、、、

無事に下山してこその登山

登山は自己責任で楽しむ世界。

頂上に到達することがゴールなのではなく、

無事に下山してこその登山だ。

2021年最初の登山は最高の天気に恵まれた雪山登山だったが、改めて自然の中に身を委ねることの厳しさを肝に命じる登山となった。

無事下山できたことをお地蔵さんに感謝し蔵王を後にした。

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