11月も網走への出張を繰り返し、あっという間に終わってしまった。
流氷の季節には少し早く、ただ寒いだけの漁港の町で過ごす休日は特にすることもない。
ウォーキングがてら網走刑務所博物館に行ってきた。
そこは予想以上に楽しめた博物館だった。
網走番外地
雨模様の日々が続いたため旅ランも今回はお預け。休日は街散策で過ごすことにした。
網走といえば思い浮かべるのは刑務所か流氷くらいか。ただ、今の時期は流氷が着岸するにはまだ早く、岸壁に係留されている観光船は退屈そうに出番を待ちわびていた。
となると残るは刑務所探訪。
昭和世代なら誰もが耳にしたことがある網走刑務所。
健さんのイメージがあまりにも強すぎてすっかり有名になってしまったが、現在の網走刑務所は川沿いにあり観光はもちろん不可。
当時の刑務所は移築され観光スポットとなっている。
網走市街から5キロ程度のウォーキング。
天都山の中腹に建てられた博物館は平日ということもあり殆ど人がおらず、貸切状態だった。
しっかりと お努め果たしてまいります!
自給自足の大地
この日の天気は気温一桁台の底冷えする曇り空。入り口からして雰囲気満点の博物館だ。
広大な敷地に当時をしのぶ建物が点在しており、所々にハリボテのマネキンがいたりして、これが妙にリアルなのだ。
遡ること100年以上前、何もない最果ての荒れ地を受刑者達が自給自足で少しずつ作っていったそうな。
冬には-20度が当たり前の極寒の地にも関わらず、掘っ立て小屋を建て薄着一枚で開拓していくさまは、それだけで罰ゲームと言えるだろう。
美しい木造建造物
舎房及び中央見張所
この博物館の目玉。受刑者たちが実際に収容されていた施設がそのまま移築されている。
中央の監視等を起点に五角形に配置された舎房は外観もさることながら、一歩内部に入り込むとそこは別世界だった。
誰もいない舎房内は凍りついたようにしんと静まり返っており、柔らかな冬の日差しが木壁を照らしている。
ゆっくりとした足音だけがレンガ敷の通路に響き、まるでここだけ時間が止まっているようだった。
建物の両側が果まで舎房になっており、ところどころ扉が開いている。
どんな部屋なのか自然と興味がわき、近くまで来たところで内部を除いてみた。
めちゃくちゃビビった!!!
それまでの展示物からハリボテのマネキンがところどころ置いてあったのはわかっていたが、思いっきり不意を突かれてしまい思わず後退りしてしまった。
よく見ると安物のクオリティーなのだが、場所柄なのか、妙にリアルなのだ。
博物館側としてはしてやったりとしたところだろう。
個室や雑居房など、とてもリアルな展示の仕方をしており看守の気分を味わえた。
真冬は薪ストーブで暖を取ることができたようだが、これだけ広い舎房を温めるには程遠いようだ。
この監獄が栄えていた当時は人権とは無縁だったのだ。
映画などでは凶悪犯や長期の囚人が収容されているイメージが強いが、開設当初は政治犯の収容が主な目的だったようだ。
当時は国が偏った方向に進み始めた時代で、その方向性に異を唱えた知識人や文化人たちも言論統制という名のもとに数多く収容されたそうな。
生きて出てこられた人はどれくらいいたのだろう、、、
防寒着を着ていても足元から底冷えする舎房内を歩いていると、気温からくる寒さ以外の冷えが頭から覆いかぶさってきた。
気がつくと体が妙に重くなり、変な頭痛がしてきたので舎房をあとにした。
15分の天国
次の木造建造物は入浴施設。
先程の舎房とは違い、ここはなぜか笑みがこぼれてしまった。
素っ裸の囚人を制服姿の刑務官が前から後ろから監視しているなかで、脱衣から入浴、着衣まで全てを15分で済ませなければいけなかったらしい。
入浴から体を洗うまで10分にも満たない時間だが、この瞬間だけは天国だったに違いない。
蝶と空
見物コースの最後に待ち受けていたのは独立型独居房。
懲罰房として利用していたようで、木造個室のタイプは窓から光を取り入れることができたようだが、レンガ造りの懲罰房は、窓の無い厚さ40センチのレンガの壁で外界とは完全に隔離され、食事も減らされた上で反省させるという厳しい部屋だ。
おもわず昔見た映画を思い出した。
モノクロで淡々と物語が展開していくが、スティーブ・マックイーン演じる主人公の迫真の演技にいつの間にか食い入るように画面を観ていた。
最後のシーンはいまだに目に焼き付いている。
一方、こちらも大好きな映画だが、時代背景の違いからかノンビリとしているが、最後まで諦めないところは共通している。
いつか来た道
というわけで一通りノンビリと見物したが、気がつけば2時間を超えていた。
堀の外は夕暮れが迫り寂寥感が一層増していたが、シャバの空気は最高に美味かった!
人が罪を犯した場合、何らかの刑に服するのは現代社会の掟だが、冤罪やときの権力に抗った場合に自由を奪われてしまう理不尽さも現代社会は持ち合わせている。
残念ながら世界のどこかでは未だに理不尽な刑罰や冤罪で自由を奪われている人達が大勢いる。
幸い、日本は一見平和だが、いつか来た道を再び通らないという保証はどこにもない。
偏った方向に進まず、危ういながらもバランスを取りながら少しずつ歩いていこう。
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