真夏の夜の夢? -出張先のホテルで本当にあった妖しくて怖い体験-

出張・旅

今の仕事がめちゃくちゃ忙しかった時代。数日おきに各地の出張先から次の出張先へと旅続きの日々。そんな状況で訪れた愛媛県松山のホテルに宿泊したときの出来事。

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この年は近年の猛暑日を先取りするかのような熱波が日本全国を覆い、松山も朝からうだるような暑さだった。向かった仕事先は前日からトラブル続きで、この日もボロ雑巾のように疲れ果てた状態で日付が変わる頃にホテルに戻ってきた。

今回の宿は大街道と道後温泉のちょうど中間辺りに新しくできたホテルで、観光地や繁華街の喧騒からは離れていた。連日の出張で疲れが溜まっていたので、繁華街の定宿ではなく静かな立地のホテルで爆睡したかったのだ。

新築オープンしたばかりのホテルは明るく清潔で、高層階の廊下はエアコンが効いてしんと静まり返っていた。部屋の扉を開けるとムッとした熱気が廊下に溢れ、疲れ切った体にまとわりついてくる。急いで部屋の窓を開け、クーラーを最強にして風呂場に直行。

ぬるめの風呂にゆっくりと浸かり涼しくなった部屋で体を乾かすと、全裸のままでベッドにダイブ。開け放った窓の外からは高層階にも蝉の鳴き声が賑やかに響いてくるが、起き上がって窓を閉める気力も残っていなかったので、いつのまにかうつぶせの状態で眠りに落ちていた。

 

ふと、目が覚めた。

部屋の入口付近でナニカの気配を感じた。

はて?ホテルのスタッフがノックしたのか?

それとも、オネーチャンを呼んだっけ?

いやいや、呼んでないし。

鍵は、、、ロックとチェーンは確かにかけたはず?

うつ伏せの状態でベッドに横たわっていたが、念のため確かめるべく起き上がろうとしたが、体が動かない。

 

金縛り?

 

子供の頃に何度か体験した感覚が久しぶりに蘇ってきた。こういう時はジタバタせずに成り行きに任せるに限る。できるだけ力を抜き気持ちを落ち着かせようとするが、呼吸が苦しい。

そういえば、寝落ちする前と何かが違う。

 

音が聞こえない。

 

違和感の原因を探ってみると、耳に届くはずの雑多な音が消えていたのだ。

窓の外で賑やかに鳴いていた蝉の声が一切聞こえない。窓の下から聞こえていた車の通る音もピタリと止んでいる。強風にしていたエアコンの送風音や冷蔵庫から聞こえていた低いモーター音も聞こえない。

聞こえないというよりも真空状態?に陥ったようで、鼻からの浅い呼吸と心臓の鼓動だけが脳に直接届いている感覚だけだ。瞼を開こうと思えば開けたが、全身がゾワゾワして開くのが躊躇われた。

 

今回泊まっているホテルの間取りは、扉から部屋まで二メートルほどの通路があり、通路の右手に水回り一体型のユニットバス。そこを過ぎると居住エリアで、右手にベッドが置かれ側面が壁に接している。サイドデスクは廊下に沿った延長線上左側にベッドと並行して設置されており、デスクの下に冷蔵庫が設置されている。ユニットバスの壁面にベッドの頭側、足元が窓側というレイアウトで、窓と足元には60センチほどの空間が空いている。よくある少し狭めのホテルの間取りだが、眠るだけなら十分な広さだ。

そのベッド上で全裸のうつ伏せ状態で顔を壁側に向け、左足をくの字に曲げた状態で声も出せずに金縛り状態になっていた。

 

暫くすると、入口に佇んでいたナニカが部屋の中へゆっくりと近づいてくる。カーペットの床を素足でヒタヒタと進んでくる気配が感じられた。

絶対にオネーチャンは呼んでいない!

連日のハードワークでそれどころではなく、今回はひたすら寝たかったのだ。

ベッドとサイドデスクの空間までやってきたナニカが自分の背中を見下ろしている。

顔を壁側に、背中をサイドデスク側に向けていたので、ナニカを直接見れる状況ではなかったが、背中の皮膚感覚で見つめられている気配を感じるのだ。

やがて、佇んでいたナニカから衣擦れの気配がし、軽い布がフワリと床に落ちる様子が伝わってきた。

ナニカが全裸でそっと佇み、オッサンの背中を見下ろしている。

オネーチャン呼んでないし!

過呼吸になりそうな状況を必至になだめ、この先の成り行きを見守っていると、ナニカが足元の方へ移動し、窓とベッドの間からベッドに上がってきた。先程よりも高い位置から全身を見下ろしている。背中と顔の左半分に痛いほどの視線を感じる。

 

 

やがてつま先辺りの重みが膝の両側辺りに広がり、その重みが肩の両側に広がった。

四つん這いに跨ってきた?

首筋から後頭部あたりに痛いほどの視線を感じる。

と、首筋にナニカが触れた。

とても細くて、しなやかで、、、サラサラとして真っ直ぐな、、、

ストレートヘアーの毛先だ!

その細い毛先がやがて密度を増し、首筋にまとわりつき左右に揺れている。

全身の毛穴からドッと脂汗が吹き出す。

ナニカがゆっっっくりと降りてくる。肩甲骨辺りに二つの点がピンポイントで触れ、その点が同心円状に広がり、二つの柔らかい重みが肩甲骨に広がっていく。

 

人間じゃない!!!

 

その証拠に、肌と肌が直接触れているのに温もりは全く感じなかった。それどころか冷たい感触も無く、温度のない二つの柔らかな重みが背中にゆっくりと広がっていくだけだった。その重みが背中、腰、腿の間、そして遂に全身が密着し、背中越しにオッサンとナニカがピタリと重なった。

もし生身のオネーチャンがピッタリと重なってきたら、息子は一気に元気になるところだが、残念ながら尻尾を巻いた犬の状態で全身に鳥肌が広がり、脂汗が滲んでいる。

 

後頭部に感じていたナニカの視線がやがて左に移動し、連動して背中の重みも移動してくる。

遂にナニカと背中越しにわずか数センチの距離で見つめ合う体勢になった。

目を開けているわけではないので想像することしかできないのだが、全身の皮膚感覚でナニカの様子がはっきりと分かる。ストレートヘアーのナイスバディーネーチャンが全裸で背中に覆いかぶさり、密着状態でこちらの瞳をジッと覗き込んでいる。

現実だとしたらメチャクチャ楽しい状況だが、ふと幼い頃に読んだ怪談物語が脳裏をよぎった。

絶世の美女と仲良くなった男が当人同士は絶好調で事を楽しんでいるのだが、男の友人が訝しがり部屋を覗くと、骸骨を抱いている男の姿がだんだんと精気を吸い取られ、やせ細り、最後には骸骨同士が抱き合っているような物語だったような。

このままナニカに取り憑かれて骸骨になってしまうのか?

完全に脳内はパニックになっていた。好奇心からどんな瞳なのか見てみたいという欲望が沸き起こってきたが、決っして目を開けるな!と本能が必死に鐘を鳴らしている。

そんな心の葛藤を見透かすかのように、ナニカの強い視線がジッと覗き込んで微動だにしない。

 

こんな時にできることといえば、脳内でありったけの念仏を唱えるくらいだ。特定の宗教を信仰しているわけではないが、何かにすがることしか思いつかない。

南妙法蓮華経、南妙法蓮華経、、、

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、、、

ドッコンショウジョウ、どっこんしょうじょう、、、

、、、

、、、全然効かない、、、

、、、

主よ人の望みよ、ジーザス・クライスト、、、

♪~~~♪~~◇△◎~~~(コーランのつもり)

、、、

 

ペロリ

突然、瞼を柔らかい舌先で舐められた?!

 

漏らじでい~でずがーーー?

(ここだけの話、チョット漏らしたかも)

 

他に思い浮かぶ呪文と言えば、、、

エコエコザラク、エコエコアザラク、、、

、、、テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、、、

、、、、、、マハリークマハーリタヤンパラヤンヤンヤン、、、

相変わらず心の中まで射抜くような視線がこちらをじっと見つめている。なんの効果もないのなら、いっそ瞼を開いて取り憑かれてみようか?

いやいや、まだまだ人生終わりたくないし。瞼を開くことだけは我慢した。

いつのまにか呼吸も止まってるくらい浅くなり、やがて意識を失った。

 

ミ゛~ンミ゛ンミンミ゛~~~ン~、、、

うつ伏せの状態で意識が戻った。

窓の外からは蝉の鳴き声と時折通る車の走行音。エアコンの風切り音や冷蔵庫の低いモーター音も耳に届いている。

背中の重さは消えていた。

そのままの姿勢でしばらくじっとしていたが、意を決して目を開くと、真っ白なホテルの壁が見えた。指先を動かし、ゆっくりと寝返りを打って仰向けになると、明るすぎる照明に目を瞬く。

金縛りは解けていた。

全身が鉛のように重かったが、ゆっくりと起き上がるとシャワーを浴びたように全身がびっしょりと濡れている。ベッドを見下ろすとくっきりと人型模様の汗染みが広がっていた。

冷蔵庫から冷えたペットボトルの水を取り出し一気に流し込み、窓辺に佇みようやく一服。

時刻は午前四時を過ぎたあたり。仄かに夜が明けてきた。

 

あれは一体何だったのだろう?

 

直接見たわけでもないのに、ナニカの外見や年格好が視覚神経を通さずに脳に直接投射されたように、くっきりと焼き付いている。顔の表情だけが欠落していた。

ただ、ナニカの感情は感じ取れていた。

それは、とても悲しくて、とても寂しくて、とても人恋しくて、、、

 

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10年以上が過ぎた今になっても、この時の出来事は気配、視線、重み、全てハッキリと覚えている。

ただ不思議なことに、ホテルの外観や部屋の内装は覚えているのに、場所がどうしても思い出せないのだ。当時、新築オープンしたホテルなので今でも残っているはずなのだが、グーグルマップでくまなく探してみたが当該ホテルは存在しない。そう言えば、ホテルができる前、あの敷地には何があったのだろう。未だに気になるが場所がわからない以上調べようもない。

以降、各地のホテルで不思議な体験は全く無い。

 

月日が経ち忙しく飛び回っていると忘れかけてしまう出来事だが、熱帯夜の季節になると、ふと思い出してしまう。

見ることの叶わなかった寂しげな瞳を、、、

 

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