動物病院での予防接種も無事に終え、翌日から待ちに待ったお散歩に出かけることになった。その姿はまるで、アスリートのトレーニングですか?というくらい活発に動き回る散歩となった。
好奇心の塊
朝食を終え二人で出かける準備を始めると、
(私は留守番なの~?)
と恨めしそうな表情をしていたが、リードを首輪に装着すると、いつもと違う展開にソワソワしだす。
(なになに?今日はみんなで抱っこ散歩なの~?)
そんなワンコに
「今日から本当の散歩行くよ~!」
と声をかけ、まずはワンコを抱っこして外階段を使って1階まで降りていく。
マンションの玄関口でワンコを降ろすと、初めての地面に戸惑いながらも盛んに歩道の植え込みをクンクンと嗅ぎ始めた。暫くの間、好きにさせていたら慣れてきたのか、隣の植え込みに向かおうとしたのでリードを引きながら歩道を歩き始める。
ところが、行く先々の歩道の植え込みからは未知の匂いが漂ってくるらしく、少し歩いてはクンクン、少し歩いてはまたクンクンと、ひたすらクン活に夢中な様子。
今日は初めての散歩なので、まずは外の地面に慣れてもらうことが目的。じっくりとあせらず、ワンコのペースで好きにさせる。
そんなワンコは焦れったいくらいの速度でゆっくりとクン活を楽しんでいたが、そのうち慣れてくると次の植え込みまでチョコチョコと小走りで進み始めた。
気になる場所を発見したらスタートダッシュ、そしてピタリと止まりクン活、満足したら再びSTOP&GOの繰り返し。その俊敏さに持っていたリードがピンッと張られ、思わず前につんのめりそうになるが、ここはしっかりとリードを短めに持ち、ワンコのペースに歩みを乱されないように調整する。
普段のウォーキングでは考えられないようなノンビリペースで近所の公園までやってくると、それまでアスファルトや植え込みのクン活に余念がないワンコだったが、眼の前に広がる木々や草が生い茂る光景に俄然テンションアップ。猛然と園内に突入していく。
ここから先はワンコの独断場。初めての公園なので好きなように遊ばせることにした。とはいえ、午前中の早い時間で園内に人はいなかったがリードを離すわけにはいかない。しっかりとリードを握りしめ、ともすればワンコが園外に飛び出そうとするのを制止する。そんな従者の気持ちはどこ吹く風と、突然走り出したと思ったら、気になる場所を見つけては立ち止まり、地面をひたすらホリホリしている。暫くの間、ワンコと一緒に公園のあらゆる場所を探検することになった。
一通り探検が終わると、今度は公園の端から端まで猛ダッシュ。そのスピードに合わせ自分も全力疾走するが、ワンコの走る速度はめちゃくちゃ早く、しかも、最大速度に達した状態で急ターンを決めたり突然止まったりするので、転びそうになったりワンコを蹴飛ばしてしまいそうになったりと、ヒヤヒヤの連続だった。
途中、草むらで急に大人しくなったと思ったらクルクルと回り始め、あれよあれよという間に特大のウンコを出し切り、開放感に浸っていた。部屋でもキチンとトイレはできるが、やはり野外で出すのは格別に気持ちいいのだろう。トイレ袋で処理していると登山中の雉撃ちを思い出した。同じような開放感を分かち合える仲間ができたことに一人嬉しくなっていた。
柴犬は一度外でトイレをすると、以降、部屋でしなくなる場合が多いらしいが、うちのワンコはどうだろう?この先、外でしかトイレをしなくなるのか、あるいは部屋でもしてくれるのか気になるところだが、基本、外でキチンと出してくれればそれでいい。あとは状況によりけりだが、聡明なワンコのようなので、きっと学習してくれるだろう。
タップリと公園を走り回り、出すものを出してスッキリしたあとは、木の根元にいる蟻の行列や、ヒラヒラと舞っている蝶々を追いかけ回し狂喜乱舞している。あらゆる事象が楽しくてしょうがないようだ。満面の笑みを浮かべながら外遊びに熱中している姿を観ていると、やっぱりワンコは外で走り回っているときが一番輝いていると実感したひとときだった。
そんなワンコといっしょに動き回っていたら汗だくになってきた。何しろ9月下旬になっても相変わらず猛暑日が続いている。この日も既に30度オーバー、一旦ベンチで休憩を取ることにした。ワンコとともに水分補給を終え一息ついていたが、ワンコはまだまだ遊びたりない様子。リードをベンチにくくりつけても盛んに動き回り、その度に首輪が喉元に食い込んでいる。スタミナお化けのワンコに対応するため、ここは選手交代といこう。
妻も一緒にお散歩デビュー
妻は初めてワンコを飼うので全てが初めての体験になる。お迎えして暫くは抱っこさえも恐る恐るだったが、今では普通にできるようになった。部屋の中でワンコの相手をするのは少しずつ手慣れてきたが、外で自由に動き回りたいワンコの対応はどうか?
リードの持ち方と指示の出し方を簡単に教えたあと、いよいよ実戦デビュー。
いざ、リードを握りしめ歩き始めると、はじめは緊張しているのかワンコに散歩をしてもらっている状態で、ワンコに引っ張られながら従って行くパターンだ。
暫くすると楽しくなってきたのか、ワンコのスピードに負けまいと一緒に小走りになったり、ワンコが立ち止まり木の根元で何かを発見すると自分もしゃがんでワンコ目線で観察したりと、意外とコミュニケーションが取れているような様子だ。あたふたと走らされてしまうのは仕方ないが、そんなことは気にしない。
なによりも大切なことは、ワンコと妻が楽しい時間を共有していることだ。その楽しい記憶が次に繋がる。
公園でたっぷり遊び帰路に着くと、往路のクン活ペースから一変し電柱から電柱までの間をストップ&ゴーで走り出した。どうやら一度通った道は覚えてしまったようだ。
マンション近くまで来ると、もうすぐ家に辿り着けることがわかったのか、電柱を無視し、ゴールまでノンストップで走り抜けようとする。途中、車道に出てしまわないかヒヤヒヤもんだったが、リードを歩道側に引くとまっすぐ走り、信号ではSTOPコマンドで強制停止させて、ようやく玄関までたどり着いた。
部屋に戻ると水をたっぷり飲み、息が整い興奮が落ち着いてくるとコテンと寝てしまった。
その日は昼寝から目覚めたあとも落ち着いており、夕食後に始まる室内運動会もこの日はお休み。消灯時間となりケージにはいるまで終始穏やかに過ごしていた。
こうして初めての外散歩は大成功に終わった。
広大な河川敷を走り回る
翌日は河川敷まで散歩し、プチピクニックをすることにした。
初日の散歩コースとは違う道だとわかると、さっそくクン活を始める。途中、人や車の交通量が多い交差点や道路は抱っこ散歩に切り替え、怖がらせないようにしながら歩いていく。
河川敷の土手にやってくると土手の上部まで階段で登ることになるが、果たして、初めて見る長い階段を登ることができるだろうか?
仔犬の目線だと土手の階段は果てしなく長く、傾斜もきつそうだったが、一瞬の逡巡の後、階段を一気に駆け登り、あっという間に土手の上部に到達した。この程度の階段はものともしないようだ。
土手の最上部まで登り切ると、はるか先まで見渡せる風景にしばし見とれていたが、ここでも早速クン活再開。道端に延々と続く雑草の匂いをタップリと嗅ぎながらマイペースで歩いている。
そんなワンコにしびれを切らし、「GO!」と号令をかけて走り出すと、ワンコも釣られて走り出す。はじめはワンコが後ろからついてきていたが、あっという間に抜かれてしまった。その後は暫くの間ワンコが先頭で走っていたが、突然立ち止まったため勢い余ってつんのめりそうになった。
ワンコのお迎え時に手配したリードの長さは標準サイズの1.2mにしたが、一緒に連れて走るような場合はどうやら短いようだ。ん~リードの長さが短かったか?それとも、なにか気になる匂いを嗅いだのだろうか?
どうやらそうではないようで、後ろを盛んに振り返っている。はるか後方で置いてけぼりをくらっている妻のことが気になっているようだ。妻がようやく追いつくと、嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄り、
(遅いよ~、一緒に走ろうよ~)
とせがんでいる。
小一時間ほど土手を散歩したあとは河川敷に降り、人のいない芝生エリアでランチタイムにしたが、シートを敷き寛ごうにも1秒たりともじっとしていない。休憩するのさえ惜しいかのように、芝生の上をクン活したり、走り回ったりと夢中で遊んでいる。スタミナお化け全開だ。
結局、シート上でのランチは諦め、ワンコと一緒に動き回りながらおにぎりを頬張る事になった。ワンコとキャンプに行くのはもう少しお預けだ。
休日なら草野球やサッカーの試合で賑わっている河川敷も、この日は平日の午前中ということもあり貸切状態だった。腹ごしらえしたあとは再び運動タイム。広大な芝生エリアに誰もいないことを確かめ、ワンコを自由に走らせてあげることにした。
人間の支配下から開放され全力疾走で風を切り割くように走る姿は、惚れ惚れするくらい力強く、ため息が出るほど美しい。
そんなワンコに暫く見とれていたが、遠くにジョギングしている人影が見えたので名前を呼ぶと、ダッシュで戻ってきた。水を飲みたそうにしていたので給水器を差し出すと、ゴクゴクと美味そうに水を飲み、人影が去ったことを確認し再び放してあげると全力疾走。誰もいない広大な河川敷の散歩を満喫した一日だった。
散歩の質とタイミング
土手から帰った翌日以降も毎日楽しく散歩に出かけている。
これからワンコが虹の橋をわたるときまで、日々の散歩は最重要な日課となる。狩猟犬の流れをくむ柴犬は野外を走り回ってこそ魅力を発揮する犬種だ。そんなワンコの魅力を最大限に引き出してあげられるよう、できるだけ外の刺激を体験できる時間を大切にしてあげよう。
一般的に犬の散歩は朝と夕方の一日二回が推奨されているようだ。毎日決まった時間に行くことでトイレのリズムも身に付くしコンディション調整がしやすい。我が家は二人共仕事をしているので、休日は問題ないとしても平日は時間を工夫する必要がある。
散歩は主に自分が担当しているが、出張中は妻が連れて行くことになるし、日帰りの仕事でも訪問先によって出かける時間がまちまちだ。場所によっては始発に乗らなければならないときもある。そのため、時間や回数を決めるのではなく、行けるときに行くリズムになる。
この場合、トイレをどこでするかを検討する必要があるが、うちのワンコの場合、室内でも決まった場所でキチンとこなせるので、外だろうが室内だろうが出したいときに出してもらえばそれでいい。実際、色々なタイミングで散歩に出かけているが、基本は外で用を足し、タイミングによっては部屋のトイレトレーでもキチンとしてくれる。
ワンコのトイレ問題はお迎え当初からキチンとこなせていたが、散歩に出るようになってからも歩道や路肩などではなく、公園等の草むらで大も小もしてくれるので本当に助かっている。飼い主の気持ちを察してくれるワンコのようだ。もちろん、たとえ公園の草むらで大をした場合でも、草木の肥やしにするのではなく、必ず袋に入れて持ち帰るようにしている。
そんなワンコの気持ちに応えるべく、散歩のときは思いっきり走れる場所やクン活に専念できるようなエリアを何箇所か設定し、日々色々なルートで散歩を楽しめるように工夫している。
柴犬は比較的長寿の犬種だが、それに比例して認知症になりやすい性質を持っているようだ。
将来、できるだけ認知症にならないようにするためには、日々、脳を刺激してあげることが有効なようなので、散歩も同じコース、同じ時間帯に決めるのではなく、できるだけ変化をつけるようにしている。日によってはトータル4時間を超えることもあるが、疲れたら抱っこ散歩に切り替え、回復して歩きたくなったら地面に下ろしてあげる。こうすることで散歩にメリハリが付き、散歩は楽しくて刺激に満ちているという記憶で終えることができる。
そんな散歩のスタイルを実践して数週間が経った。
外に出られず室内のみで過ごしていたときは、常に部屋中が台風に襲われているような状態だったが、散歩に行くようになってからは、まるで台風一過のような穏やかな状態となり、それまでの騒動が嘘のように落ち着いてきた。
柴犬のような、もともと屋外で飼われていたワンコにとっては、外で思いっきり遊ばせてあげることがストレスを溜め込まない一番の特効薬のようだ。季節もようやく涼しくなってきたことだし、家にいるときはワンコとともに外で思いっきり汗をかくことにしよう。
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