1年前のお盆休みに可愛い豆柴のパピーをお迎えしてから1年が過ぎた。
正確には、ペットショップで一ヶ月待機していたパピーを生後三ヶ月でお迎えしたことになるので、一年と三ヶ月が過ぎたことになる。
あっという間に一年がすぎたが、ワンコとの暮らしは様々なハプニングに遭遇する。それでも毎日オキシトシンが出まくりで、充実した日々を過ごしている。
本能と理性のせめぎあい
お迎えして丸二週間は24時間付きっきりでワンコの様子を見ていたが、9月に入り、まさかの長期出張が入ってしまったので、平日は妻がワンオペで対応することになった。
この時期は、まだ散歩に連れ出していなかったので、毎日、室内を台風が通過したような状態だったようだ。


初めてペットショップでワンコに出会ったとき、妻にとても懐いていたので、きっと仲良くできるだろうと予想していたが、予想以上に妻に懐き、妻もワンコを飼うのは初めてだったが、様々なハプニングにもめげず、とても愛情深く接している。


ワンコ目線で一緒に部屋の中を走り回ったり、戯れあったりしていると、ワンコは嬉しくて興奮してくる。
すると、妻の手を甘噛みすることで喜びを表してくるのだが、初めてパピーと過ごすことになった妻にとっては、かなりの試練だったようだ。
ワンコは本気噛みしているわけではないのだが、乳歯が生えて間がないパピーの犬歯は針のように細くて鋭い。


母犬なら噛まれても毛で覆われているので痛くはないのだろうが、人間の柔らかい皮膚では簡単に穴が開いてしまう。ワンコは甘噛みしてるつもりでも、肌が剥き出しの人間にとってはかなり痛かったりする。
初めのうちは「痛ッ!」と叫んで逃げ回っていたが、楽しくて興奮状態のワンコにとっては、その様子が興奮をさらに加速させてしまう結果になり、もっと甘噛みをしようと妻の後を追いかけて回している。
母犬や兄弟犬と一緒なら、ガブっと反撃して痛さのレベルをパピーに実感させることで、パピー自身が判断できるようになるのだろうが、人間が相手だとなかなかそうはいかない。
ワンコにとって甘噛みは本能だ。感情を表現する大事な行動なのだが、その力加減がまだわからない。どれくらいの力加減なら人間が痛がらないのかを、毎日根気強く教え続ける日々だったようだ。
昭和の時代なら、ワンコの躾はゲンコツや体を抑圧したりして教えることもあったが、そういうやり方を妻は好まない。というより、性格的に無理なようだ。
北風ではなく、太陽のように暖かく見守るタイプだ。
低い声でダメ!と一言告げ、隣の部屋に去る方法を辛抱強く、根気強く何度も何度も繰り返していた。
初めのうちはワンコは何が何だかわからず戸惑っていたが、その方法が少しずつ効いてきたようで、ワンコも自分なりに力を加減するようになってきた。
そうすると妻も嬉しくて褒めるのだが、加減すれば褒めてもらえることをワンコ自身が少しずつ学んでくれるようになった。

そうこうするうちに、乳歯が抜け永久歯に生え変わった頃を境に、不思議なことに甘噛みがピタッと止んだ。
今ではこちらから指や手を歯にあてても噛むようなことは一切なく、口の中に指を入れても歯を当てる程度で噛む力を加減できるようになってきた。


楽しいから噛んで甘えたいという本能を、人間を噛んではいけないという理性が上回ったのだろう。出張から帰る度に妻の手の甲や腕は傷だらけになっていたが、今となってはたくさんスキンシップした勲章だ。
ケージ越しの瞳
二人とも仕事に出かけるような時は何が起こるかわからないので、ケージに入れて留守番をさせていたが、そうすると、とても悲しそうな表情で網越しに見つめてくる。
ケージの中=一人ぼっちでお留守番ということを理解している。

そんな悲しげな瞳を振り切り、いつも後ろ髪を引かれるような思いで玄関の扉を閉めていた。
反面、帰宅すると満面の笑みで喜びを表し、早くケージから出して!と二足立ちでダンスをしている。そしてケージの扉が開き切る前に飛び出し、熱烈歓迎で帰宅を喜んでくれていた。

ところが、しばらくすると帰宅してもあまり喜ばなくなり、ケージの中でじっと見つめ返してくる頻度が増えてきた。
その瞳は
(なんで狭い籠に閉じ込めるの? 私、イタズラなんてしないもん!お利口さんに留守番できるもん!トイレだってちゃんとできるのわかってるでしょ?)
と訴えている。
そこまで訴えているのならと、試しに、短時間留守にして様子を見てみることにした。
出かける時にケージに入れず、リビングフリーの状態で初めは30分、そのあとは一時間と、少しずつ時間を伸ばしてみた。
結果、リビングが荒らされてたり、電気コードをかじるなどの悪戯された痕跡は一切なく、ゴミ箱も無事だった。
試しに、留守中にiPhoneを動画撮影状態にしてダイニングまでフリーにしてみると、ほとんどの時間を昼寝しているか、窓の外を眺めているかで、トイレは必ずトイレシートまで移動して用を足している姿が映っていた。



ケージの扉をフリーにした
結局、半日程度なら何の問題もなく留守番をしてくれることがわかった。
それ以上の長い時間を留守にしても、このワンコは問題なく留守番してくれると確信しているが、妻は心配でいたたまれないのだと言う。
鍵っ子で育った自分からすれば、むしろ一人の時間を楽しめると思ってしまうが、妻の幼少期は常に母親が家にいたので、甘えたい時に甘えられて寂しい思いはしなかったという。そんな思いから、産まれて間もないワンコを一人で留守番させるのは、きっと不安でしょうがないと訴えている。
なので、ワンコと暮らし始めて一番大きな変化と言えば、旅行や外食に出なくなったことだ。
それまでは、ノープランで突然旅行に出たり、外で食事を摂ったりしていたが、妻はワンコと暮らし初めて丸一年、家を半日以上空けたことは一度もない。外食したくなったらテイクアウトして、部屋でワンコと一緒に食べるようになった。
そんな妻の思いがワンコに伝わったのだろう、妻に対して絶大な信頼を寄せるようになり、部屋の中では妻の後ろをいつもチョロチョロとついて回っている。
日常的な家事や洗濯、掃除などを横でじっと観察し、妻の行動を記憶しているようだ。




昼寝の最中は起こすようなことは決してせず、妻が起きてくるまで柵の前で番犬モードになっている。


時折、大人気なくワンコと喧嘩することもあるようだが、それとて、ワンコにとっては良好な関係を構築する良い機会となっているようだ。
我慢の限界
リビングとダイニングがフリーになったことで、日中は妻と楽しく、穏やかに過ごしているが、それでも寝る時は念の為にケージに入れて鍵を閉めていた。
ある晩、珍しくケージ内でクンクンと要求鳴きを始めた。
ケージ内でクン鳴きをするのは初めてだったので、なにか異変が起こったのかと思い様子を見に行くと、ケージから出して欲しそうに尻尾を振っている。
遊ぶ時間は過ぎていたので、少しだけケージ越しにあやして寝室に戻るが、再びクン鳴きを再開し、更にケージの金網をガジガジと引っ掻き出した。
その様子から切迫感のようなものが伝わってきたので、ケージから出してあげると、扉が開くや否や一目散にトイレまでダッシュし、クルクルと回って場所を確認することもなく、直ちにしゃがみウンコをほとばしらせた。
下痢便だったが、シートのど真ん中に出してくれたので大惨事は回避できた。ワンコ自身も床を汚さずに済んだことで表情に安堵感が漂っていた。
柴犬はとてもキレイ好きで、寝床近くではトイレも我慢すると言われている。うちのワンコもそのようで、普段からケージ内にはトイレシートを敷いているが、今まで一度もケージ内でトイレをしたことがない。
トイレに関しては朝の散歩に出かけるまで我慢しているが、この時は、さすがに我慢の限界だったのだろう。初めての強烈な腹痛に耐えきれず、切ないほどのクン鳴きで訴えていたのだ。
その後も二時間おきにトイレに駆け込み、結局、明け方近くにようやく下痢便が治った。
下痢の原因については、食事が原因とは思えなかったので、ワン友のオネーサンに聞いてみると、顔見知りのワンコ達の中にも、同時期にお腹を壊しているワンコが数頭いるとのことだった。
感染性の流行り病にでもかかったのかもしれないが、その後はきれいなウンコに戻り、いつもの元気を取り戻したので良しとしよう。
もともと外飼が主流の柴犬を室内で飼う以上、我慢できない時はどこでしても叱ったりすることはしないと二人とも決めていた。
それでも、ケージ内ではなく、必ずトイレシートのある場所で用を足しているワンコを見ていると、もし、その意図に気づかずケージ内で放置して、我慢しきれずケージ内を汚してしまったら、きっとワンコは心に傷を負ったことだろうと思った。
(ね!トイレだってキチンとできるでしょ?)

このワンコは自分で考え行動することができるワンコのようだ。そういう性格のワンコに対しては、あれこれ躾に気を使うより、本当にダメなことだけをきちんと伝え、あとはワンコの自主性を尊重してあげる方が、お互いの信頼関係が高まる気がする。


川の字
その日を境にケージの扉もフリーにし、部屋を隔てていた柵も取っ払った。
リビングとダイニングはワンコが自由に動き回れるようにしてあげると、それまで以上に表情が明るくなった。
部屋を汚したりイタズラすることもなく、昼夜を問わず好きな場所で寝たり寛いだりしている。




そして、ついに念願の寝室もフリーにしてみると、待ってましたとばかりに布団にダイブし、柔らかい布団の感触と匂いを全身で楽しんでいる。




お留守番の時は畳んだ布団の上にチョコンと丸まり、妻や自分の帰宅を待っている。
寝る時間になると布団にやってきて、足の間で丸まったり足元で背中を付けて眠っている。




時折、寝返りをうったときに体が当たったりすると、「ワン!」と吠えて抗議してくる。
その後、二人の顔にお尻をくっつて再び寝る体制に入るのだが、超絶臭いスカシっ屁で仕返しをしてきたりする。
それでも、朝になってみると、二人の間で肉球や身体をくっつけ合いながら熟睡している。


妻の夢だった、ワンコと一緒に寝るという願いが叶った。
ところが、一歳を過ぎた頃、初めて布団にオネショをしてしまった。
この頃になると、用を足すのは散歩中意外はしなくなったし、どうしてもしたい時は部屋の中ではトイレで用を足している。
パピーの頃もケージ内でもオネショをすることは無かったので、まったくの予想外な出来事だった。
明け方、なにやら動く気配がしたので寝ぼけ眼で頭を傾けると、隣で妻とワンコが何やらゴソゴソと動いている。どうしたのかと体を起こすと、
(見ないでー!)
と言わんばかりに、目も合わせず全身で布団の一部を隠そうと躍起になっている。

妻によると、ワンコがチョイチョイと手を当ててきたので何事かと起きてみると、オネショをした場所をさかんに舐めてお漏らしを報告していたようだ。妻が気づいてトイレシートで拭いているところだったとのこと。
ワンコにとって、妻はなんでも相談できる相手のようだ。少々のことでは怒ったりしないことが、功を奏したのだろう。
そんな間が悪いときに自分が起きてきたものだから、ワンコは恥ずかしくて必死に隠そうとしていたようだ。自分の前では優等生でいたいらしい。普段は大人ぶっているワンコだが、オネショを必死に隠している姿は可愛くてしょうがない。
そんなワンコの姿を見ていると、こちらはオキシトシンがダダ漏れになっている。
オネショ事件はそれ以降発生していない。ワンコ自身が律しているようだ。
そんなワンコの気持ちを汲み、最近は、最後の砦にしていた仕事部屋の柵も取り払い、どの部屋も自由に出入りできるようにしてあげた。すると、一人になりたいときや留守番のとき、怒られて落ち込んでいるような時は、仕事机の下で丸まって過ごしたり寝ている時間が増えてきた。
どうやら、ワンコにとっては、ここが一番静かで落ち着ける場所のようだ。


クレートやケージに入れるハウストレーニングは結局マスターしていないが、外出リュックに収まるときは大人しくしているので良しとしよう。なにより、ワンコが部屋の中で安心して寛いでいる姿を見れることが一番だ。
夢で会えたら
このように、普段から穏やかに過ごしているワンコだが、寝ているときも穏やかな表情を浮かべている。




無防備な寝姿を眺めているだけで幸せな気持ちにしてくれる。
時折、意味不明な寝言を言うときもあるが、いつも同じパターンで寝言を言う時がある。
とても寂しげな鳴き声でいつまでもクン鳴きを続け、瞼の縁は薄っすらと濡れている。まだ一歳にもならない仔犬なのに、一体どんな悲しい出来事を思い出しているのかと胸が痛む。
ここからは勝手な妄想になるのだが、、、
ブリーダーのもとで産まれたパピーは、生後二ヶ月程で各地に散らばっていく。
母犬のもとで過ごす最後の夜、母犬は状況がわかっているのだろう。今夜が我が仔と過ごせる最後の夜だということを。
優しく我が仔をあやしながら、
(貴女の側にいてあげられるのは今夜が最後です。明日からは姉妹とも離れ離れになってしまうけど、飼い主さんに出会ったらたくさん可愛がってもらえるよう、お利口さんにするのですよ。)
(貴女をペロペロしてあげるのは今夜が最後です。これからは貴女が飼い主さんをペロペロしてあげるのですよ。そうすれば飼い主さんは貴女のことをとても可愛がってくれますよ。)
翌朝、母犬と突然離され、その後はペットショップの狭い空間で過ごす孤独な夜は、さぞ心細かっただろう。
初めてペットショップのショーウィンドウ越しにワンコを見たとき、とても大人びた表情でこちらを見つめていたが、単に大人びているというわけではなく、妻に抱かれたときは満面の笑顔で仔犬らしい喜びを表していたのを思い出すと、きっと誰かに甘えたいのをグッと我慢していたのだろう。
一番甘えたい時期を、孤独にじっと耐えていた我慢強い瞳だった。
そんなワンコと一年間共に過ごしてみると、その性格がとてもよく表れている。大人しいというより、どんなときでも周りの状況をよく観察していて、その時の状況に合わせて行動し、付かず離れずの適度な距離感で側にいる。
例えば、映画などを見ているときは側で一緒に見ていたりするが、バラエティを見始めると、すぐに違う部屋へ移動してしまう。
我が家のワンコは騒々しいのが嫌いなのだが、だからといってワンワン吠えて自己主張するのではなく、自分たちが見ている状況を邪魔したりはしない。
一方、静かで穏やかな音楽を流していると、スピーカーの前でうっとりとした表情を浮かべ、足元に寝そべり、いつまでも聴き入っている。



柴犬は他の犬種に比べ精神的な成熟度が早く進むようで、お迎えして数ヶ月で既に大人の瞳に変わっていた。
仕事に出かける時、行かないで~とヘソ天でコロコロ転がりながら甘えてくるが、それでも支度をやめないと、今度は急に態度を変え大人の瞳で誘惑してくる!



最も賢いと言われているボーダーコリーのように、いろいろなコマンドを瞬時にマスターし、飼い主に従って行動するという気質ではないが、その時の状況をよく把握している。
部屋で仕事をしているときや、家事をしているときは適当な場所で寛いでいる。そして仕事が終わる気配を察知すると、トコトコとやってきて遊んでアピールをしてくる。

因みに、【マテ】や【オスワリ】、【伏せ】などはすぐに覚えたが、【お手】は未だに出来ない。というより、覚える気がないようだ。
【お手】と言っても、
(お手が出来たからって、それになんの意味があるの~?)
とばかりに、とぼけた表情で見つめ返してくるだけだ。

ワンコに【お手】を覚えてもらう理由の一つに、肉球などを触ることに抵抗を無くしてもらうことが挙げられるようだが、我が家のワンコはどこでも触らせてくれるので、お手を覚えてもらう意味は余りなさそうだ。
どんなに肉球をムニュムニュしようが、マズルを掴もうが、一般的に犬が触られて嫌がる部位でも、特に抵抗を示さず自分たちの好きにさせてくれる。
触られたくないときは剥きっ歯を見せてくるので、そういうときはワンコの気持ちを尊重し、一切触らないようにしている。

何はさておき、パピー期の一年を無事に乗り越えることが出来た。
柴犬は外飼が当たり前だと思っていたが、いざ、室内で一緒に過ごしてみると、とんでもなく可愛いので四六時中クシュクシュしたくなるのだが、適度な距離感を取っていないとガウッと怒られてしまう。
時に頑固な一面を見せ困らせることもあるが、それ以上に普段は穏やかで優しい気質のワンコと暮らしていると、日々、オキシトシンが溢れてくることを実感できるようになった。
こうして1年を振り返ってみると、あっという間に時間が過ぎていったが、大きな目標であるセンテナリアンへ向け、共に歩む伴走犬として最高の相棒になってくれそうだ。

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