山岳リゾートホテルの名門、ホテル立山が8月末日で閉館してしまった。
立山山域のベースとなる室堂平(標高2,450m)に建つランドマークで、いつも賑わっていた記憶がある。
一番好きな山はどこ?
趣味が登山だと答えると、登山をやらない仕事仲間から聞かれるNo1がこの質問だ。
30代から登山を始め、出張族の利点を活かし日本全国の山を登ってきた。
百名山制覇には遠く及ばないが、各地で特色のある山行を楽しみ、気がつけば四半世紀が過ぎた。
そんな山旅で一番好きな山、立山の記憶を振り返ってみた。
ステップアップ
初めての冬山で死にかけた経験から、それ以降、どんな山であってもキチンとした装備と事前の情報収集は時間をかけて行うことにしている。

山道具はそれなりにお金がかかるが、出張の度に副業で稼ぐことができたので、行く先々で道具を揃えることができた。

各地を出張しながら少しずつ道具を揃え、時間を見つけてはその土地の山に登っていた。百名山を制覇することは特に意識していなかったが、立山は頻繁に訪れた山域だ。
その理由として、幼少期から流れていたTVCMのフレーズが頭から離れない。どんな場所なのかといつも想像力を掻き立てられていた。
♪つるぎ たてやま くろべはあ~きよ~♪
♪ユキちゃんのかおり あ~あえっちゅ~♪
♪にほんか~いみっそ~♪
そんな立山山域だが、富山へ頻繁に出張する機会が訪れたので、山道具をザックに入れて行き来していた。
初めて見る3,000mの大絶景
富山市内で仕事をこなし、休みが取れたので初めての立山へ山登りをすることになった。
立山登山の一般的なルートは、室堂までバスで上がり、そこから立山三山を縦走して室堂からバスで降りてくるというのが定番コースのようだ。
ただ、ベースとなる室堂は観光地なのでシーズン中は大混雑しているとの情報だった。
それならば、バスを途中下車して弥陀ヶ原から登山を開始し室堂まで登り、山小屋で一泊、翌日に立山を登りh早めの時間帯に室堂からバスで帰る余裕のプランを組んでみた。

満員の乗客を乗せ立山駅を出発した観光バスは、ゆっくりと山道を進みながら標高をどんどん上げていく。
ヘアピンカーブを回る度に絶景が窓を覆い、高度が上がるにつれ木々の色が移ろいでいく。
標高1,930mの弥陀ヶ原のバス停で降りたのは自分だけだった。
バスが行ってしまうと辺りは途端に静けさに包まれた。
近くには弥陀ヶ原高原ホテルがポツンと佇んでいるのみで、彼方に立山の頂上が顔を出している。
このエリアはまだ雪が積もっていないが、頂上付近は白い冠を被っている。室堂エリアも雪が積もっているだろうか。

これから単独で登山道に分け入るため、入念にストレッチを行いゆっくりと歩き出す。
晩秋の静かな山道は登山靴の踏み跡もなく、人が歩いた気配は全く感じない。
途中、鎖場を登ると急に視界が開け、絶景の木道歩きが続く。すでにテンションMAXで心のなかでは感嘆符が何個も現れていた。
地面の所々に雪が積り、暫く進むと木道にも新雪が積もりはじめていた。





小動物の足跡を辿りながら木道を歩いていると、やがて前方に目的地の室堂に建つホテル立山が見えてきた。
最後は車道沿いを歩いていくことになるが、眼の前に飛び込んでくる景色は360度のどこを眺めても絶景だ。
バスの車窓からだとあっという間に通り過ぎる景色だが、自分の足で歩いているとタップリと堪能できる。




昼頃に室堂ターミナルに着くと、予想通り観光客でごった返していた。売店で購入した熱々の豚汁が冷えた体に染みこんでいく。
その後は雪と氷に覆われた室堂エリアを散策して、初めての山小屋にチェックイン。






いつもは無人の避難小屋を利用し山行を楽しんでいたので、温泉と食事付きの山小屋はすこぶる快適だった。
日本最高地点にある温泉はかなり熱かったが、アドレナリン出まくりでタップリと汗をかいた体に心地よく、風呂上がりはあっという間に熟睡してしまった。
翌日はあいにくの曇り空で今にも雪が降ってきそうな天候だった。
この日は立山三山を縦走するプランだったが、一ノ越の稜線に出ると猛烈な風で、時折、横殴りの雹が頬を打ち体ごと吹き飛ばされそうになる。
頂上まで残り300メートルほどだったが、あまりの強風だったため登頂を断念。






単独で山を登る時は絶対に無理をしない。雲取山で学んだことを徹底することにした。
来た道を室堂のターミナルまで引き返し、バスで立山駅まで降りることと嘘のように穏やかな天気に戻っていた。
初めての3,000メートル級の山行は断念することになったが、眼の前に迫りくる大パノラマにすっかり心を奪われ、以降、毎週のように各地の山を登るきっかけとなった山行だった。
立山頂上はホワイトアウト
それからは、定期的に富山で仕事をしていたので、折を見ては立山エリアに出かけていた。
日帰りで室堂エリアを散策する時もあったりしたが、この時は立山三山を縦走し、劔岳の絶景を楽しめるという【剣御前小舎】に宿泊、翌日は黒部ダムを散策するプランにしてみた。
この時は室堂までバスで一気に上がったが、ターミナルを出ると雨模様の天気だった。

前回は一ノ越で悪天候のため引き換えしたが、今回は雨混じりではあるもののガスが晴れそうな気配だったので気を引き締め頂上を目指す。
標高2,700mの一ノ越から見上げると標高3,000mの頂上はすぐそこのように思えるが、いざ登り始めると、雨で濡れた浮石だらけのザレた岩場を登るのはかなり神経を使う。

それでも慎重に一歩一歩足を進めると、やがて頂上にたどり着いた。
残念ながら、辺りはガスが立ち込め視界が効かない。しかも雨脚が強くなってきたので、雄山、大汝山、真砂岳、別山と、すべて立ち止まること無くスルーし、今夜の寝床、剣御前小舎へはずぶ濡れの状態でチェックインすることになった。



この日は今季最後の営業ということで、貸し切りだった。
部屋で一休みした後に外へ出てみると、雨は止みガスも消えていた。
すると、先程までは気が付かなかったが、眼の前には絶景が広がっていた。
雲海に沈む夕陽、そして初めて見る劔岳の圧倒的な存在感!
この山小屋は劔岳の絶景撮影スポットだったのだ。






圧倒的な存在感
翌朝は快晴だった。
360度のどこをみても絶景が広がり、なかでも朝日に照らされれた劔岳は別格のオーラを放っていた。






鼻水が凍るくらい激寒だったが、いつまでも眺めていたくなるような存在感だった。
次は絶対に劔岳に登る!
そう心に決め、立山を後にした。









そんな素敵な記憶が残る立山のランドマークが今年に入り営業を終えることになった。
冬の時期は10メートルを超える雪に埋まってしまうため営業することができず、採算的に苦しい状況が続いていたのだろうか。
ラウンジは引き続き営業していくようだが、宿泊施設は大手チェーンホテルが営業を引き継ぐようだ。
きっと、金太郎飴のようなホテルになってしまうのだろう。
そんな事を思いながら、ホテル名物の水出し珈琲の味を思い出していた。

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