待てば海路の日和あり -退去騒動その後-

ワンコ

ワンコを飼うことは賃貸借契約違反に該当するため、住処を追われそうな状況になった。契約違反なので出ていってくれと言われれば借家人としては出ていくしかない。とはいえ、ペット可の物件に引っ越そうにも、今の時期は一年で一番引っ越しの繁忙期なので、物件は既に契約済だったり、引越し業者も予約で埋まっている状況だ。

こういうときに慌てて事を進めようとすると、良い方向には進まないことが多い。

最近は、ちょっとしたトラブルが起こると、すぐに弁護士をたてて話を複雑にしてしまうようなケースも多いようだが、この段階で第三者を交えるのは火に油を注ぐようなものだ。

まずは社長と腹を割って話し合うことが先決だ。

とりあえず三月末までは猶予期間なので、その間に今後の方向性についてあれこれ知恵を絞り、プランB、プランCを準備し、社長と交渉するタイミングをじっくりと待つことにした。

そんなある日、ワンコと朝の散歩から戻ると、一階で隣のオバサンがゴミ出しをしているところに出くわした。

ワンコを抱っこしながら今回のいきさつをあれこれ話していると、オバサンが家賃を払いに不動産屋に行った際、今回のペット騒動の真意を確かめてくれたようだ。そして、うちのワンコを今後も飼えるようにして欲しいと、社長に直訴してくれたらしい。

もともとワンコ大好きオバサンで、十年ほど前まで室内犬を飼っていが、ワンコが虹の橋を渡ったあとは一人で暮らしている。なので、ワンコをお迎えする際、ワンコを連れて真っ先に隣のオバサンに挨拶をし、鳴き声や匂いなどが少しでも気になるようなら直ぐに知らせてください、と重々お願いしておいた。

幸い、初対面のときからワンコもオバサンもお互いのことが大好きになったようで、いつも可愛がってもらっている。

そうした状況が幸いしたのだろう。不動産屋の社長に対して、

「お隣さんのワンコは鳴き声もしないし、誰にも迷惑かけてないわよ!」

「我が子のように可愛がっているワンコと別れるのは絶対に嫌よ!」

「長年住んでいる住人達の気持ちを考えてくださいな!」

と切々とお願いしてくれたそうな。

なんとありがたいことか!!!

この先、どのように事態になるとしても、お隣さんの心遣いには感謝の言葉しか見当たらない。

それから数日が過ぎた頃、不動産屋の事務員から留守番電話が入っていた。

「社長が話したいことがあるので、お越しください。」

ということだ。

はてさて、どのような話を切り出してくるのか?

約束の時間に不動産屋の扉を開けると、社長と奥さん、そして事務員がニコニコ顔で待っていた。

応接ソファーで社長と向かい合い、まずはお詫びの菓子折りを差し出し、今回の騒動の謝罪をすると、社長は手を横に振り謝罪を遮った。

「いやいやjinjinさん、今回お呼びしたのはそういうことではないんですよ。」

と、社長が笑顔で今回の顛末を話してくれた。

社長いわく、今回の騒動は最上階のオバサンに対してレッドカードを出したということだ。

以前からワンコの鳴き声に関してクレームが寄せられており、社長自ら何度も玄関先まで出向き、時間を問わずワンコの吠える声を確認していた。そのうえで、当該住人に対し、鳴き声問題を改善するよう再三警告を発していたにも関わらず、一向に改善する様子が見受けられなかったので今回の措置に及んだということだ。

社長の方針としては、他の住人からクレームが寄せられない限り、ペットに関しては黙認しているということで、我が家のワンコに関しては、そもそも飼っていることは知らなかったということだ。

話しぶりからは、【知らなかった】ということにしておいてくれているようだった。

頻繁に連れ出していると記されていたワンコのことも、うちのワンコのことではなく、違う階の住人がエレベーターを使ってワンコを連れ出していたことが原因ということだった。

そうした状況の中、特に鳴き声のクレームも出ておらず、お隣さんとも良好な関係を築いている我が家に対しては、出ていってほしいわけではなく、今後も住み続けて欲しいということだった。

とはいえ、ペット禁止条項があるので、外に連れ出すときは今まで通り外階段を使い、その際、他の住人に目撃されないようにしてもらえば、飼っていることは把握していないというスタンスで、今後も黙認するということを告げられた。

社長の温情に感謝し、今後も他の住人に迷惑がかからないような飼い方を続けていくことを約束した。

その後はワンコのことで話が盛り上がり、実は社長の奥さんもワンコを飼いたがっているということだったので、ワンコの魅力をたっぷりと伝え和やかなに話し合いを終える事となった。

ワンコが原因で住処を追われることは、ひとまず回避することができた。

やれやれ、まずは一安心!

その後、再び朝のゴミ出しで隣のおばさんと話す機会があり、出ていかなくてもよくなったことを報告すると、我が事のようにとても喜んでくれた。

今回の騒動はお隣さんに救われたようなものだ。改めてお礼と感謝の気持を述べ、今後もワンコの声が少しでも気になるようなら、すぐに教えてくださいと改めてお願いした。

そして何より、ワンコに対しても感謝の気持ちが湧いてきた。

他の階の住人が飼っているワンコは、ドアホンの音が鳴っただけでも激しく吠える気質のようだが、うちのワンコはお迎えしてから今日に至るまで、無駄吠えや他人に迷惑をかけるようなことは一切なく、どんなときでも余計な警戒心を抱かずフレンドリーな性格で場を和ませてくれる。周りに気配りができる性格のようだ。

そんなワンコのフレンドリーな性格だが、一方でとても繊細な心を持ち合わせているようだ。

今回の騒動中、妻がショックで落ち込んでいるとき、ワンコがその気配を敏感に察知していたようで、自分のことが原因でママが落ち込んでいると思い、数日間お腹を壊して寝込んでいた。

なんと健気な性格のワンコなのだろう。

下痢が回復した後もイマイチ元気がなかったが、住居問題が解決したことをワンコに告げると、とたんに元気を取り戻し、いつも以上に顔中を舐めまくり喜びを分かち合ってくれた。

今後も、他の住人からクレームが出ない限り住み続けることができるようにはなったが、散歩に連れ出す時にコソコソと周りを伺いながら出入りするようでは、いくら穏やかで気配りができるワンコといえども、性格が萎縮してしまうかも知れない。

不動産屋の配慮には感謝しつつ、ワンコが伸び伸びと暮らしていけるような方法も模索していこう。

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