酸ヶ湯温泉キャンプ場を後にし、次の出張先、仙台では湯治宿に宿泊し、日々、シンプルに過ごすことができた。
久々に美味い駅弁と出会う。
酸ヶ湯温泉キャンプ上からバスで新青森まで戻るとお昼時。
駅ビルの食事処は行列していたので、新幹線に乗る前に駅弁を購入した。
それなりの値段だったが、すんごく美味かった。
最近の駅弁はどれも似たり寄ったりな味付けだが、この駅弁はオリジナリティ溢れている。鯖のにぎり、サーモンのにぎり、それぞれ異なる味付けを楽しめるようになっており、どれから食べるか迷ってしまう。
おかずも地元の食材を上手く調理しており、一口ごとに幸せになれた。色々な賞を獲得しているようだが納得できる。青森出張の時はリピ確定だ。
お腹を満たせた後は一眠り。あっという間に仙台に着いた。
仙台駅近くのホテルに部屋を取りたかったが、コロナが開けてから室料が一気に跳ね上がった。仙台の定宿も例外ではなく、もはや出張族では泊まるたびに赤字になってしまうような価格設定だ。
今回の出張は二週間なので、なるべく宿代は節約したいところ。
仕方なく範囲を市内から市外へと広げ色々探したが、秋保温泉エリアは高すぎて問題外。最悪、カプセルか?と危惧したが、秋保温泉の更に上流まで範囲を広げると、山間に一軒の温泉宿を発見した。
公共機関を使ったアクセスを調べてみると、仙台駅からは仙山線とバスを乗り継ぎ、バス停から川を超え徒歩1キロ程。要は山奥の温泉宿で、普通に考えれば車で行くような場所だ。
とは言え、最寄りのバス停まで徒歩1キロでたどり着けるのなら、十分に通勤可能だ。仙台駅からは遠いが、今回の仕事先へはバスで30分ほど。仙台駅から電車で通うより早いので、二週間お世話になることにした。
100年以上続く老舗湯治宿
バス停を降り、脇道を下ると名取川の渓流に出くわす。眺めの良い橋を渡り、そのまま車道を登ると最奥部に宿の看板がある。周りを緑に囲まれ、色々な野鳥の鳴き声が出迎えてくれる。
意外にも宿は比較的新しい作りで、一見するとリフォームした田舎の大きな民家のようだ。
玄関で靴を脱いでもフロントらしき場所は見つからず、備え付けのインターホンで呼び出す仕組みになっている。
暫くすると奥から気さくなご主人(四代目だそうな)が現れ、台帳にサインをした後は二階の部屋に案内してくれた。
予約した部屋は六畳の一人部屋だったが、通された部屋は角の一番広い八畳ほどの部屋だった。湯治宿を想像していたので、もっとこぢんまりとして何もない部屋を想像していたが、2週間の滞在となったため、きっとサービスしてくれたのだろう。
不思議なことに、各地を宿泊しているとホテルにしても民宿、旅館にしても、何故か部屋をアップグレードしてくれることが多い。この手の運は持っているようだ。
因みに、前日に泊まった酸ヶ湯温泉にも湯治客専用の宿泊棟がある。昔ながらの風情が残る六畳間で、とても落ち着く部屋だった。最近は登山目的でもテント泊に切り替えたので、湯治部屋に泊まる機会はめっきり減ったが、テント泊以外で宿泊する場合、湯治宿は選択肢として十分アリだ。
窓からは里山の森が広がり、心地よい風が吹いてくる。
エアコンは無く扇風機だけだったが、とりあえず問題なし。予約の電話で部屋にエアコンが無いことを念押しされたが、そこは山間の宿、自然のクーラー効果で朝晩はきっと涼しいに違いない。
しかも、これだけ部屋が広ければ半乾きのテントを干すこともできる。
一息ついた後は布団の足元にテントを設営し、鴨居にはグランドシートを掛け陰干しする。この一手間がテントの寿命を伸ばすのだ。
一通りの荷物を広げた後は温泉で汗を流す。
浴場は二箇所、男風呂(時間帯によって混浴)と女風呂があるようで、男風呂の方はそれなりの年季が入った浴場だった。女風呂はリフォームエリアの奥まった場所にあるようで確認できなかったが、男風呂と違い、きっと新しいのだろう。
ここの温泉は熱いお湯が湧き出ているのではなく、冷たい泉、いわゆる冷泉が湧き出しており、その冷泉を加温して温泉として提供してくれる。
地球が温めているのか機械が温めているかの違いだけで、かけ流しの湯あたりは柔らかく、癖のない泉質だ。
温泉に毎日入浴するような場合、癖が強すぎると逆に湯疲れしてしまったりするが、その点、ここは大丈夫そうだ。
浴槽自体は三人も入れば満杯になるような広さで、民宿の浴槽のようにこぢんまりとしている。
他には冷泉が湧き出している水汲み場?があり、洗い場は一箇所。
熱い方の湯船に数分浸かり、一度出てかけ流しの冷泉を浴びる。この動作を数回繰り返していくと全身の血の巡りが良くなり、体の芯から疲れが取れてくる。
冬場だとこの入浴法を朝、昼、晩に何度も行い、体の芯まで温めることになるのだろうが、夏場は湯船にサッと浸かり、冷泉をザッと浴びる。これを数セットで十分だ。夏の湯治場で長湯はやめておこう。ブッ倒れること必至だ。
以上、季節に即した湯治湯の入り方。
湯治宿の食事
湯上がりはラウンジで寛ぎ、汗が引いた頃に部屋に戻ると夕食の時間になった。
静かに流れてくるBGMは【ある貴紳のための幻想曲】
こんな山奥の宿で懐かしい曲が聞けるとは!
予想外な選曲でちと嬉しくなった。
この宿は湯治客用に自炊室もあり、食材を持参すれば一通りの調理はできるようだが、今回は出張なので自炊はせず、食事付きのプランにした。
この宿はどのプランでも食事を部屋まで持ってきてくれる!
食事のたびに食堂まで降りなくてもいいので、とても助かる。
食事のグレードは松竹梅から選べるが、一番リーズナブルなプランにしたので内容は特に気にしていなかった。それでも十分に美味かった。
日替わり定食の内容で量は腹七分といったところだが、どれも薄味で食材の味をしっかりと味わえる味付けだ。普通の食材を使っているだけだが、毎日飽きることはなかった。
湯治目的ならこれくらいの量、味付けのほうが体に優しい。
仕事内容がガテン系なら少ないと思うが、今回のように早朝から仕事へ出かけ、戻ると直ぐに夕食。あとは温泉入って寝るだけなので、十分な内容だ。
二週間の滞在は湯治が目的なのではなく、日々の仕事をキチンとこなすことなので、これくらいの食事で規則正しい生活を続けたほうが体の調子が良くなる。
湯治宿での休日
この時期、朝の四時過ぎには明るくなり、鳥の鳴き声で自然と目が覚める。その後、始発のバスに乗るため、川向うのバス停まで散歩を兼ねた通勤。
熊やイノシシが普通に出没するような自然環境なので、少し緊張気味にあたりに目を向けながらの通勤となった。
夕暮れに腹を空かせて宿に戻ると、直ぐに食事が運ばれてくる。
その後、一息ついた後は温泉に浸かり、布団で寝転がっていると自然と眠りに落ちる。
こんな規則正しい生活をしていると、週末も早朝から目が覚める。
今回は朝から雨の休日となった。
仙台エリアも連日猛暑が続いており、この宿も仕事から戻ると部屋に熱気がこもっていたが、明け方には寒くて布団を手繰り寄せるほどだった。
なので、窓から入り込む、マイナスイオンたっぷりのヒンヤリとした空気の下で淹れる珈琲の味は、格別に美味い。
午前中から温泉に浸かり布団でゴロゴロしていると、昼を過ぎたあたりから雨足が弱くなってきた。
体が動きたがっているようなので、傘を差して秋保温泉街まで散歩する。
片道3キロほどの川沿いの道は雨粒に洗われた新緑が美しい。
雰囲気の良い土産物店で雨宿りをしていると雨がやんだ。
大人しくしていた野鳥たちが再び元気な鳴き声を響き渡せる中、宿に戻り温泉で汗を流す。
夕食後はいつの間にか寝落ち、、、
自然以外に何もないシンプルな湯治宿。市街の喧騒に包まれたホテル暮らしより、遥かに身も心も喜んでいる。
函館から続く出張も残すところあと一週間。
自宅に戻る頃には、お肌ツルツルのオジサンになっていることだろう。
コメント